Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
脊髄小脳変性症は臨床的には運動失調を主徴とし,病理学的には小脳および遠心路,求心路,後根後索の変性萎縮を中心として大脳皮質,大脳基底核,錐体路などにも変性が広がる慢性進行性神経変性疾患群の総称である.神経症候としては運動失調以外に,錐体路症候,錐体外路症候,精神症候,感覚障害などが出現する1).リハビリテーション治療の効果を考える場合,多彩な神経症候や慢性進行性の経過に合併する廃用症候群のどれに治療手技が作用して,どのような効果が見られるのかが問題となる.
リハビリテーション治療手技のなかには,ある刺激を与えて反応を促通しようとするものが多い.刺激が中枢神経機構の上位,中位,下位中枢に作用し,重畳的,階層的に反応が構成されていくとの仮説がある2,3).1つの治療手技が脊髄反射機構で効果を発輝するのか,上位中枢で脊髄反射機構とは異なった機序で効果発現するのか,あるいは両者の相互作用によるのかを検討することが必要となる.
一方,臨床場面では1つの治療手技というよりは多数の治療手技を組み合わせて用いるのが普通である.そのため,ある治療手技が複雑な病態のうちどの系に作用するのか,刺激が階層構造である中枢神経系のどのレベルに作用するのかを判別することは難しい.むしろ,種々の治療手技の集合(セット)が種々の反応を引き出して,総合的な効果が作り出されると考えるほうが実際的である.
脊髄小脳変性症に対するリハビリテーション治療効果に関する研究では,これまで2つの方法が採られている.1つは,ある特定の治療手技が効果を発現する機序を分析する研究である.特定の治療手技以外の影響を除外するために,治療手技の実施直後に直前の状態と比較してその変化を検討する方法で,短時間に起こる現象を取り扱うことが多い.そのため長期的効果があるのかどうかの判定が難しいこともある.もう1つは,臨床場面で種々の治療手技を組み合わせて用い,その治療手技のセットがもたらす総合的効果を検討する研究である.長期的効果を分析することが容易であるが,複数の治療手技を用いるために個々の治療手技の効果発現機序の分析が容易でないこともある.一般には,はじめにある特定の治療手技についての効果発現機序を分析する.効果が確認された後,治療手技のセットとして用いて臨床場面での長期的効果を見る.
今回は,治療手技の効果発現機序と長期的効果の2つの視点から脊髄小脳変性症,とくに運動障害へのリハビリテーション治療の効果を検討する.
Copyright © 2000, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.