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はじめに
ことば(言語)によるコミュニケーションは,人間の最も人間らしい営みを支える基本的な条件のひとつであろう.ことばによって日々の経験,思い,考えを分かち合い,知識や文化の蓄積と継承が可能となる.
しかし,言語によるコミュニケーションが種々の原因で破綻をきたし,人間らしく生きることに重大なハンディキャップをもつ人々の数は人口の約5%にのぼると推定され,医療・福祉・教育の諸領域にまたがる深刻な問題を提起している.
リハビリテーション関連職種のなかで長年の懸案であった言語聴覚士の国家資格制度化が,一昨年の暮れ(1997年12月)に成立した.去る3月末には第1回国家試験が実施され,4,003名の有資格言語聴覚士(以下,ST)が誕生した.専門職種としての新しい時代のスタートを告げる画期的な出来事と言えよう.
STの臨床活動を支える言語聴覚障害学は,正常なコミュニケーション過程の科学的究明を基盤として,複雑多岐にわたる言語聴覚障害像の記述,評価,原因の究明,治療ないしリハビリテーションの方法論の開発と体系化を目指す応用科学の1分野である.言語科学系,心理・教育・社会科学系,医学系,工学・情報科学系の諸科学を包含する幅広い基礎科目と,言語聴覚障害の評価・診断学,治療学の総論・各論から成る専門科目とを統合した学際色の濃い領域といえる.独立した専門領域としての進歩を支える研究活動,臨床活動,および学生の養成教育が三位一体をなしていることも特徴である.
本稿では,まず講座全体への前置きとして,(1)正常なコミュニケーション過程について概観し,次いで,(2)STの臨床対象となるコミュニケーション障害の種類・原因・特徴,(3)臨床(評価・診断・治療)活動の原理と技法,(4)最近の動向,などについての概略を述べすることにしたい.
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