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はじめに
理学療法士の専門性は臨床,教育,研究など多岐の場面で発揮されているが,大部分は疾病や障害を治療対象とする臨床現場での実践を通じて活動していると言っても過言ではない.日本理学療法士協会に所属する会員の分布調査によると,約70%近くが医療施設などで臨床業務に従事しているとされている1).さらに医学の進歩と疾病構造,社会的ニーズの変化,医療制度改革などによって専門職としての臨床活動に対する多様性と広がりを今まで以上に求められることになり,これらに応えるべき責務を担わされているのも事実である.
理学療法士が対象とする疾患については,リハビリテーション医学の時流とともに整形外科疾患やポリオなどの末梢神経疾患を主体とした時代から脳血管障害や脊髄損傷などに代表される中枢神経系疾患へと遷移し,さらに近年では脳科学の進歩とともに高次脳機能障害を含むニューロリハビリテーションへとその領域が大きく変容している2).臨床医学領域における理学療法は,脳血管障害,運動器疾患や神経変性疾患などの一般的な対象疾患に加えて疾病や障害構造の変化に伴い呼吸器,心疾患や糖尿病などに代表される内部障害系疾患,終末期におけるQOLを含むがん緩和ケアから,高齢者の栄養状態,アンチエイジング,健康増進や生活習慣病に由来する予防医学的視点をも含む領域までその対象が拡大している.また,社会構造の変化,医療制度改革などと相まって臨床活動の範囲は治療から予防へ,医療現場から対象者の生活基盤となる地域へとその広がりを見せている(図1).このことが理学療法士の専門性の細分化や個別化をさらに加速させる要因となっており,そのために多職種間との協働の下での臨床活動が今まで以上に求められている.
臨床活動を通して理学療法に対する成果の検証とこれらに基づく質の向上への転換を強く必要とされているのが現状ではないかと思われる.本稿では,このような背景を踏まえて理学療法士の今日までの臨床活動についての変遷をたどり,今後の方向性と課題についてまとめてみたい.
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