Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
内村鑑三の『後世への最大遺物』―健常者と障害者に共通の倫理
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.800
発行日 1998年8月10日
Published Date 1998/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552108737
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内村鑑三の『後世への最大遺物』(岩波文庫)は,明治27年に箱根で行われた講演をもとに文章化された作品であるが,そのなかで内村は,「誰にも遺す事の出来る最大遺物」とは「勇ましい高尚なる生涯である」として,次のように述べている.
すなわち,金を残すことも事業を残すことも著述を残すことも尊いには違いないが,これらのものを残すには,それなりの才能が必要で,誰にでもできることではない.しかも,ある人の残した事業なり著述なりは,「その人の生涯に較べた時には実に小さい遺物」にすぎない.例えば,かつてカーライルは,何十年もかかって完成させた生涯の著作『革命史』を,友人が誤って燃やしてしまった時,次のように自分に言い聞かせて,再び筆を執ったという.「汝の書いた『革命史』はそんなに貴いものではない.第一に貴いのは汝がこの艱難に忍んでそうして再び筆を執ってそれを書き直す事である.それが汝の本当にえらい所である.(中略)それ故にもう一度書き直せ」.
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