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はじめに
随意運動の遂行に関わる中枢神経系の機序を理解することは,運動障害後の機能回復訓練を行ううえで有益な基礎的情報を提供しうる.特に理学療法の分野において,永続的な運動障害を残す中枢性疾患患者に対して,新たな運動を再学習する有効な手段の開発は不可欠である.このためには,随意運動の発現機構を正しく理解し,その機序に基づいた有効な手段が開発されるべきである.すなわち,リハビリテーションを行ううえで効率的な運動学習手段の開発と遂行には,常にヒトの随意運動の発現に関わる運動神経生理学的機序を駆使することが重要である.
ヒト随意運動の制御機構に関する運動神経生理学的解析は,自ずから制約が伴うために,多くは下位運動中枢の機能を対象とした電気生理学的手法を駆使して行われる.具体的には,主に電気刺激によって誘発されるH波やF波の変化を指標に解析が行われてきた.しかし,H波やF波による解析はあくまでも2次的(間接的)な指標である.最近になって,より直接的な上位運動中枢の運動制御機構の解析手段が開発された.すなわち経頭蓋磁気刺激法である.この方法によって記録される運動誘発電位(Motor Evoked Potential;MEP)の潜時や振幅の変化から,随意運動の制御に関わる上位運動中枢の機能を解析することが可能となってきた.
経頭蓋磁気刺激によるMEPの特徴としては,随意運動の遂行に伴い安静時に比べてMEPの振幅は増大し,潜時も短縮する.さらに,筋の収縮をイメージすることによっても,MEPの振幅は増大することが知られている1-3).このような運動イメージ想起によるMEPの変化は,脊髄運動ニューロンと錘体路細胞の両方の興奮性に変化をもたらした結果と考えられているが,具体的な結論には達していない.しかし,最近のkasaiら3)の報告では,下行性運動指令は,脊髄運動細胞の興奮性を反映するH波に比べて,MEPでより正確に反映しうることが示されている.運動イメージの想起という実際に随意運動の遂行を伴わない課題では,目的の筋に筋放電が出現していないことから,純粋に随意運動の発現に関わる中枢性制御の過程がMEPに反映される4).さらに,実際の運動を伴わないということは,運動の遂行の結果として必然的に生じるさまざまな末梢性感覚入力の影響を除外でき,中枢性随意運動制御機構(具体的にはその運動の遂行に関わる運動プログラム)の実態が,MEPの振幅変化として反映される.
そこで今回,われわれは,この運動イメージ想起法を用いて,運動の開始に重要な影響を及ぼす運動肢の肢位変化,いわゆる筋の伸張による末梢からの入力が,中枢性運動指令の生成にどのような影響を及ぼすかをMEPを用いて分析した.さらに,運動イメージ想起法を用いることによって,われわれの脳は末梢性感覚入力をどの程度利用し,有効な運動指令の生成に役立てているかについて検討を行った.
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