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はじめに
脳血管障害をかかえる患者および家族は,退院後,病前と異なる生活を再開し,健康問題をはじめとしてそれに付随して生ずる生活上の課題に取り組んでいかなければならない.入院中からそのような健康や生活上の課題が予測でき,さらにそれらに対する適切な対処方法が準備されているならば,患者および家族の退院時の不安は軽減されるであろう.また,入院中に適切な退院指導・援助が提供されることによって,患者および家族は,退院後に生ずる新たな課題や問題への対処方法を身につけることができ,慢性疾患や障害を持ちながらも在宅で療養生活を送ることが可能になる.したがって,病院が入院中の患者に対して,退院後の健康や生活上の問題の発生を予測し,退院計画を立てることが望ましい1,2).
退院計画を推進していくことは,患者・家族に療養生活上の安心感を与えるだけではない.病院経営側,広い意味では社会的資源の有効活用という点でも貢献し得ると考えられるようになってきている.現在,日本の多くの病院で実施されている退院計画は医学的判断を優先させる傾向にあり,退院後,病気や障害から派生するであろう療養生活上の課題を念頭に置いたものとは言い難い.このような退院計画のもとでは,医学的には問題がなくても,退院後に患者および家族が療養生活上の危機に遭遇した際に,その危機に十分に対処できず,混乱する可能性が高い.場合によっては在宅生活が破綻し,再入院へと結びつく,いわゆる社会的入院を引き起こすことも少なくないであろう.したがって,退院後の療養生活を予測し,患者および家族がその問題に自ら取り組めるよう準備することは,不必要な再入院を予防し,医療資源の有効活用につながると思われる.
米国においては,1980年代から退院計画の重要性が強調されるようになるとともに,それを裏付ける実証研究も行われるようになった.
退院計画に関する研究を大別すると,①入院期間への効果を分析対象としたもの,②医療ソーシャルワーカー(以下,MSW)による退院後の患者の療養生活の安定性に関する予測の適切さを検証しようとしたもの,③再入院率や患者の満足度を結果変数として退院計画の効果を見ようとしたものがある.
まず,①の入院期間に関する研究には,介入として患者が退院に際してもつ社会的,心理的抵抗といった面に対する援助を取り上げ,それらが入院期間の長短に与える影響を分析した研究3),社会的入院を防ぐために,その恐れのあるケースを早期に発見するためのスクリーニング指標を開発し,その適切さを検討した研究4),入院期間を結果変数として退院計画の効果を検討し,早期退院の可能性を探った研究5)などが含まれる.このような研究は主として米国で行われているが,入院中の治療・訓練・援助をいかに効率よく行うかに焦点が向けられており,その背景には,DRGs-PPS(疾患グループ別前払い方式:Diagnosis Related Groups-Prospective Payment System)という医療制度の仕組みが関係している.
②のMSWによるアセスメントや退院計画の適切さを検証しようとした研究には,Millerら6)の研究が含まれる.この研究では,メディカル・リハビリテーションセンターの経験豊かな3人のMSWに,入院時の患者と家族への面接を通して,退院時点で患者が自宅への退院となるか,Skilled Nursing Facility(専門介護ナーシングホーム)への転所となるかを予測させ,実際の結果との比較を行っている.
③の退院計画の効果を評価しようとした研究には,その活動を記述的にとらえて評価しようとする研究と,その援助結果をみようとするものに分けることができる.Clossらはそれらを整理し,退院後の再入院率や患者の満足度を結果変数として効果を評価した研究のレビューを行っている7).
前述したMillerらのように,退院後の患者の行き先の予測の適切さを検討することも後者の研究に入る.
退院計画を円滑に進めるためには,計画の遂行に責任を持つ専門職の配置が望ましい,一般的には,その専門職として看護婦やMSWが考えられることが多いが,わが国ではMSWによって心理社会的側面からの援助を中心として行っている報告がいくつかみられる8-12).しかしながら,MSWの専門的な技能,特にアセスメントの力量を客観的に検討した研究は,わが国ではほとんどみられない13).本研究では,その先駆けとして,リハビリテーション専門病院に所属している,あるいはリハビリテーション科と連携している病院のMSWが行う,脳血管疾患患者の療養生活に関するアセスメントが,脳血管疾患患者・家族の退院後の現実をどの程度正確に予測できるかを分析することによって,MSWの専門的な力量の評価を試みようとした.
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