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総論
絞扼性神経障害(entrapment neuropathy)とは,解剖学的に隣接する組織からの機械的刺激によって発生する末梢神経の局在する障害である.神経が最も慢性的機械的刺激を受けやすい場所,すなわち,末梢神経幹が関節近傍で線維性または骨線維性トンネルを通過する場所で発生する.この発生部位を絞扼点(entrapment point)という.
解剖学的要因に外因性,内因性要因が加わって発症する.外因性要因にはガングリオン,増殖した滑膜,骨折後の変形などトンネル内のspaceoccupying lesionの他,反復性小外傷などがある.また,重複神経障害(double lesion neuropathy)も念頭に置く必要がある.これは頸椎症や胸郭出口症候群など近位部に圧迫性神経障害があると,神経易損性が増大して遠位の絞扼点において絞扼性神経障害を発症しやすくなるという病態で(図1a),double crush仮説(図1b)を元に得られたものである.内因性要因にはホルモンアンバランス,妊娠,代謝性疾患,薬物中毒などがある.糖尿病,慢性腎不全などでは内因性神経易損性の充進のためしばしば両側性に発症する.
診断は各症候群の特異的症状に基づく.重複神経障害の確認のために神経の全走行に沿って診察する.内因性神経易損性が疑われる場合は全身的検索を行う.鑑別診断として,頭蓋内病変,脊髄疾患,神経根障害,神経変性疾患などがある.
補助診断法として電気生理学的検査が最も重要であり,運動神経伝導速度(MNCV),知覚神経伝導速度(SNCV)を測定し,絞扼点における伝導速度低下を確認する.また,針筋電図により支配筋の脱神経電位の有無を見る.その他に,画像診断としてX線写真,CT,MRIなどがある.
治療は初期には生活指導や薬物療法を行うが,中期以後は手術によって絞扼点における神経の除圧を図る.上肢の進行例ではさらに萎縮筋に対する再建術として各種腱移行術を行う.重複神経障害の場合は近位病変に対する治療,たとえば頸椎症に対する頸椎牽引などを併せ行う.内因性神経易損性があれば原病の治療を同時に行う.
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