Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
多発性脳梗塞によって出現する神経心理学的症状としては,痴呆と精神症状がまず思い浮かぶ.脳血管障害によって痴呆が起こることは,1974年にHachinski1)によって提唱され,現在広く認められている事実である.1990年に出されたNINDSの脳血管障害分類2)においても血管性痴呆の項目が取り込まれている.また,脳血管障害患者のリハビリテーションを施行するうえでも痴呆の存在は大きな阻害因子となる.
そこで,今回は多発性脳血管障害で出現する痴呆も含めた神経心理学的評価について述べる.一般的に標準化された検査から,各研究者が大脳機能の掌握のために独自に開発した検査まで,さまざまなものがあるが,全てを述べるには紙数が足りないので,今回はリハビリテーションを施行するうえでの簡易な評価の注意点について述べることとする.
神経心理学的評価の目的としては,診断,診療評価および研究などがあげられる.診断に関しては,最近の画像診断学の進歩により,部位診断や臨床診断はかなり正確になってきている.しかし,まだ多くの中枢神経系疾患の診断は,臨床所見を中心に行われている.
実際に脳血管性痴呆は,知的機能に重要な特定部位の梗塞が出現した場合や,脳の破壊量が一定限度を超えたときに起こるとされており3),画像のみでは非特異的であり,その診断も程度も判定はできない.痴呆の診断は,DSM IVによって行われることが一般的であり,短期と長期の記憶検査,失語,失行,失認や,計画や命令の遂行能力を判定できる検査が必要である5).また,多発性脳梗塞で出現する高次脳機能障害は,当然さまざまなものがあり,すべての項目に対して一通り検査を行う必要がある.
一方,神経心理学的検査は,介護および治療のための患者自身の能力,治療効果判定などの臨床評価を目的として行われる場合がある.この場合は診断の時点で認めた症状を中心に行えば良いが,多発性脳梗塞患者では,一人の患者に多彩な症状が出現することから,種々の検査を施行しなければならない.
Copyright © 1996, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.