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はじめに
痴呆は脳疾患による症候群であり,慢性あるいは進行性で,記憶障害をはじめ多数の知的機能障害を示す疾患である.知的機能障害の程度は日常生活の個人的活動をはっきりと損なうものと規定されている1).厚生省の報告によると,痴呆患者推計値は平成2年に100万人を超え,平成22年には200万人に達する2).痴呆患者の増加は介護者の負担を増し3),社会的にも経済的圧迫を伴う大きな問題となっている4).
リハビリテーションの目的として,社会復帰だけでなく,「個人の機能的状態や環境状況を回復すること,あるいは残存機能を維持・最大にすること」も重視されるようになり,痴呆に対して残存機能維持も含めたリハビリテーションの考え方が取り入れられてきている.しかし,痴呆が知的機能低下を主とした不可逆的病理過程であるとすると,そのリハビリテーションにおける医療サービスは従来のリハビリテーション医療とは異なる点も多い.
従来のリハビリテーション医療では,神経疾患,整形外科疾患などによる運動障害を主要対象として,種々の技術を用いた治療・訓練を行って,可能な限りの回復を目指す5).痴呆の場合,知的機能障害を対象として,施設・居宅サービスなどの社会的リハビリテーションと強く連携して,必要な医学的支援,すなわち医学的リハビリテーションを行う.この過程では運動療法や機能訓練が必要でないこともあり,施設入所が生活適応の試みとしてリハビリテーションの重要な段階であったりする.医学的サービスは神経学,リハビリテーション医学などの知識・技術体系とともに,精神科からのアプローチも重要となる.
治療可能な痴呆(treatable dementia)の診断と治療,老年期合併症の診断と治療6),感情・意欲障害や問題行動などへの薬物療法7),メンタルケア8),介護方針の確立,適正な生活環境の選択・改善などが介入内容に含まれる.
知的機能障害患者のリハビリテーションにおける臨床評価には2つの大きな目標がある9).1つは痴呆の診断で,これにより,治療可能な痴呆や合併症に対する医学的治療の方針を立てたり,機能予後予測を行ったりすることが可能となる.もう1つは機能的状態の評価であり,現在の生活への適応力を検討し,介護方針の検討,生活環境への配慮などを行うことができる.この2つの臨床評価をどのように進めるかについて概説する.
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