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はじめに
本論の目的は老化によって生じる精神・心理機能の変化について述べることである.「老化」という用語はagingの訳であり,「加齢」と同義に用いられることも多いが,ここではこの両者は区別する立場をとる.すなわち,加齢とは文字どおり「年齢を重ねる」,「歳をとる」という,実年齢に即した概念であるのに対して,老化は今堀1)の考えに従って「加齢に伴う生理的機能の低下」とする.したがって,老化は実年齢と深く関わっている現象ではあるが,必ずしも加齢に比例するわけではなく,年齢だけからその機能低下の程度を正しく判断できるわけではない.
人の精神・心理機能や,その基盤となる脳のはたらきの老化に関しては,これをいかなる人も避けて通れない生理的老化と,特定の人のみに生じる病的老化とに分けることができる.両者をはっきり区別することは困難であるが,病的老化の代表的な状態がアルツハイマー型痴呆を代表とする脳の変性疾患である.
ここでは主に生理的な老化の現象を扱うこととする.生理的老化に伴って精神・心理機能はどのように変化するのであろうか.一般に,歳をとれば,知能や記憶は悪くなると思われている.しかし,はたして本当にそうであろうか.また,ひとくちに知能や記憶と言っても,加齢に伴って減衰しやすい機能とそうでない機能とがあると思われる.どのような機能が加齢の影響を受けやすいのであろうか.本論ではこれらの問題に関して,現時点で主に神経心理学的知見からわかっていることを取り上げる.最後に,最近むしろ加齢によっても低下しない認知機能が注目されてきており,高齢においてもこの種の能力を発達させていこうとする生涯発達の心理学の立場が研究されてきている.この点について簡単に触れることとする.
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