Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
手塚治虫の障害者観(第2報)―『火の鳥』鳳凰編の茜丸
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.477
発行日 1996年5月10日
Published Date 1996/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552108112
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前回の本欄では,『火の鳥』鳳凰編(朝日ソノラマ版)の我王という片目片腕の障害者を紹介したが,鳳凰編には,もう一人印象的な障害者が描かれている.それは,大和の茜丸という彫刻師で,彼は,我王が未だ殺人鬼だった頃,「まともな二本の腕を自慢されるとがまんがならねえ」という理由で,利き腕の右手を切られたのである.
それまで「右手だけに一生をかけてきた」茜丸は,最初,「もう死ぬまでおれの腕ですきなものを彫ることはできないのだ」と絶望するが,永宝寺の和尚との出会いの中で,「おれには……まだ一本腕があるんだ」と思い直し,残された左手で彫刻を彫り始める.そればかりか彼は,「いままではじぶんの腕に思い上がっておりました」「こうしてしずかに祈っているうちに,はじめて心のおろかさと小ささをあじわいました」と言い,「あのとき賊に一本の腕を斬られなければこういう気持ちはあじわえなかったでしょう」「わたしはますます自信過剰になり,慢心と独善ではなもちならなくなっていたでしょう」とまで,思うようになるのである.
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