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はじめに
筆者自身,C5レベルの頸髄損傷による重度四肢まひ者であり,重度障害者である.1973年7月,高校2年の時,ラグビーの試合中の事故により受傷した.以来,自分自身の問題として,頸髄損傷者を代表例とする重度四肢まひ者の「介助」と「仕事」の問題に取り組んできた.
障害には,視聴覚障害,精神障害,肢体障害,あるいは内部臓器障害といった身体部位別分類がある.一方,機能障害,能力障害,社会的不利といった階層的分類もある.また,障害のこのような分類に“重度障害”という概念を追加するものもある.本論では,重度障害者の中でも,主に重度四肢まひ者の経済保障と就労についての問題を取り扱う.
重度障害者にとっての[社会的]自立生活(Independent Living)の中核は,本人の自由意思による自己決定とそれに対する自己責任である,と考えられる.この自由が実質的に保障されるためには,豊富な選択肢が用意され,かつ利用可能であることが必要である.また,重度障害者の自己決定権を保障するためには,自己決定能力・自己管理能力とならんで,経済的基盤の確保が重要な前提条件となる.
要介助の重度四肢まひ者にとって,経済的基盤のなかには,本人の生活費と並んで介助者費用が必要となる.要介助の運転免許取得不可能な重度四肢まひ者にとっては,リフト付タクシー料金なども必要となってくる.視覚障害者では朗読者,聴覚障害者では手話通訳者,要約筆記者の費用などである.住居費用は,障害のあるなしにかかわらず必要なものであるが,受傷以前に住居取得の場合や受傷後家族と同居の場合は,その費用は軽減されるが,病院・施設から退院・退所時,家族からの独立時に非常に大きな問題となる.家族に頼らず,住み込みの介助者を雇う場合には,もう一部屋余分の住居費がかかり,通いの場合には交通費がかかる.
重度障害者が自立生活,とくに社会的自立を得るためには,経済的基盤をどのように獲得するかが重要になってくる.わが国で自立生活運動を展開する場合に,経済保障をどう獲得すべきか.特に,国や地方自治体による保障に加えて,重度障害者の積極的就労を促進して経済保障を得る考え方もある.
本論では,これら自立生活運動展開と重度障害者の経済保障および就労問題について,いくつかの事例を紹介しながら,現状と展望を考察することを目的とする.
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