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自閉症の脳障害へのアプローチ
自閉症という乳幼児期に発症する精神障害が発見されてからすでに半世紀が経っており,この障害が何らかの脳機能障害に基づくものであるとの傍証はいくつも得られてきている.しかし,障害の本態について明らかになったことは必ずしも十分といえない.自閉症概念が提唱された(Kanner,1943)あとしばらくの間,この障害は医学的な問題よりも初期の育児環境の中で生じた一種の反応である,との考え方が研究者の間で優勢であったため,自閉症の脳機能に照準を合わせた研究が出遅れてしまったことも事実である.しかし1960年代の半ばから長期の追跡調査(Rutterら,1967a,1967b),実験心理学的研究(Hermelin & O'Conner,1970),脳障害についての仮説(Rimland,1964;Ornitz,1968)が報告されるようになり,それらの実証的根拠により自閉症の本態が生物学的なものであるとの共通認識が次第に形成されていった.自閉症を脳機能から捉えようとする研究を広く神経心理学的研究とするならば,その主な方法には,神経解剖学的,神経化学的,神経生理学的,遺伝学的なアプローチ,そして心理学的研究がある.これらの分野においてこの約20年の間になされた報告の数は膨大である.得られた所見はときに一致せず,別の研究者によってまったく反対の結果が示されることも稀ではなかった.数多くの研究報告の中には,確証された知見として現在の自閉症概念に組み込まれたものもあれば,すでに否定されたものもある.肯定的な所見であっても,実は自閉症に特異的なのではなく,むしろしばしば付随する要因(知的障害,データ採取のときの生理的条件や状態像など)によって影響された結果であったと考えられるものもある.また,今なお議論の真っ只中にあるテーマもある.それらをこの誌面で手短にまとめるのは困難な作業であり,筆者の力量にも余る.
本稿では,主に行動的所見や心理学的所見を通じて提唱されたいくつかの自閉症の脳障害モデルをあげ,その論点に沿って述べることにする.自閉症の神経心理学的研究についてより広範な,あるいは詳細な綜説は,栗田(1988),横田ら(1990),成瀬ら(1993)を参照されたい.
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