Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション
死とリハビリテーション―「コルチャック先生」と「霧の中の風景」
伊藤 哲寛
1
1北海道立緑ケ丘病院
pp.77
発行日 1993年1月10日
Published Date 1993/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552107279
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生の躍動がその本質である子供の死に立ち会わなければならない時,大人に何ができるのであろうか,最近観たポーランド映画「コルチャック先生」(アンジェイ・ワイダ監督)とギリシャ映画「霧の中の風景」(テオ・アンゲロプロス監督)における子供たちの死は,厳しい政治状況の中でなければ起こり得なかった死を描いたものだけに,私たち臨床家に強烈な印象を与えるものである.
「コルチャック先生」は,ユダヤ人特別居住区に移された孤児200人をナチの手から守ろうとする老小児科医の物語である.孤児院の子供たちを待ち受けているきわめて過酷な状況のなかで,まずコルチャックがしなければならなかったのは,餓死をくいとめることであった.「子供たちを救うためには悪魔とでも手を握る」ことは孤児院の院長として当然のことであった.しかし,子供たちの死が避けられないことが明らかになるにつれ,子供たちをいかに死に直面させるかという問題へとコルチャックの苦悩は深まる.恋人を失い自殺を訴える子供に「子供にも死ぬ権利がある.大人より尊厳をもって女のために死ぬことができる」とまで言い切る.さらにタゴールを題材とした心理劇の中で,子供たちに臨終の場を演じさせ,死を体験させようとする.しかし,彼が最後にできたのは,ユダヤ人の印「ダビデの星」の旗を掲げて子供たちとともに敢然として,「遠足」のように,死に向かうことであった.何台も続く護送列車の中から,子供たちとコルチャックを載せた貨車が切り離され,解き放たれた子供たちがその扉から喜びに満ちて飛び出す幻想のシーンでこの映画は終わる.
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