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はじめに―画像診断法の概略―
磁気共鳴画像診断magnetic resonance imaging(以下,MRI)法が開発され,現在のように広く脳・脊髄疾患の診断に用いられるようになるまでは,脳・脊髄炎症性疾患の診断は専ら単純X線撮影,CT,脊髄造影によってなされてきた.
まず脳炎症性疾患の画像診断に関しては,単純X線撮影では細胞性封入体によるウイルス性脳炎,結核性髄膜炎,toxoplasma,肺吸虫などの脳寄生虫症などで特徴的な石灰化が認められるが,いずれも慢性期の炎症に認められる所見である.その他,脳内感染による小頭症,髄膜炎後水頭症による頭蓋内圧亢進所見,副鼻腔炎や真珠腫性中耳炎などの含気腔の炎症,骨折や術後の変化や骨髄炎に伴う骨変化などが観察される.CTでは脳実質が描出されるため,石灰化や骨変化に加え,膿瘍,脳炎,肉芽腫などによる脳実質の変化が腫瘤や異常吸収域として捉えられる.造影剤投予後のCTでは,膿瘍の被膜は典型的なリング状の,肉芽腫は充実性のcontrast enhancement(以下,増強効果)を示す腫瘤として描出される.脳炎では,単純herpes脳炎は側頭葉を主体とした領域に低吸収域として描出され(時に出血を伴うことがある),遅発性ウイルス感染による脳炎では大脳白質部に限局性またはびまん性の脱髄による低吸収域が認められる,髄膜炎は一般にCT上異常所見を呈さないことが多いが,結核や真菌などの肉芽形成を伴うものでは,脳槽内に肉芽による増強効果が認められる.硬膜炎では硬膜の肥厚,増強効果が認められ,石灰化を伴うことがある.このほか脳シンチグラフィーが脳膿瘍,肉芽腫,脳炎の診断に用いられることがあり,血管造影が腫瘍との鑑別のために行われることがある.
次いで脊髄炎症性疾患の画像診断に関しては,単純X線撮影では,脊椎炎や椎間板炎に伴う骨変化が捉えられる.単純および静脈性造影CTでは骨変化と共に軟部組織の変化が描出されるが,脊椎管内の病変の描出には限界があり,脊髄内の病変は特別な場合を除いて描出困難である.脊髄造影は,クモ膜炎や硬膜外膿瘍などの脊椎管内の病変を描出できるが,脊髄内の炎症性病変は脊髄の腫大もしくは萎縮として描出されるのみであり,診断はしばしば困難である.
以上のように,単純X線撮影CT,脊髄造影など従来より行われてきた検査法は,それなりの利点を有した検査法であり,特に石灰化や骨病変の描出に関しては単純X線撮影やCTは現在でも不可欠の検査法と考えられるが,MRIは上記の検査法に比し特に優れた組織コントラストを有する検査法であり,任意の断層面が得られ,また近年MRI用造影剤が開発され,CTより優れた病変描出能を持つことから,脳・脊髄炎症性疾患の画像診断法の主流となるに至っている.特に脊髄病変の診断においては,脊髄や椎間板が直接描出できることより,脊髄造影は次第に行われなくなりつつある.
しかしMRIは高磁場の制約があり,時間を要する検査法であることから,重症者や体動の予想される患者には不向きな検査であることを知っておく必要がある.以下,脳・脊髄炎症性疾患について,MRI所見の特徴,読影上の要点について解説する.
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