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はじめに
脳血管障害に対するリハビリテーション医療的介入の効果については,既に多数の研究が存在し,全体としてそれが有用であることは疑いのないところであろう1).しかし,その現状はというと必ずしも思い通りのものではない.ここでは脳卒中の早期リハビリテーションの概要と現状について私見を述べたい.
脳卒中の早期リハビリテーションを概観すると次のようになる.すなわちリハビリテーション的な早期介入は明らかに脳卒中患者の機能予後を改善し得る.その際,リハビリテーションという言葉が指す意味は,障害指向的観点を重視した治療体系であり,ベッドサイドリハビリテーションがその中核である.したがって主治医,看護婦がその運営の主体者であるという視点が重要になる.特に良肢位保持,関節可動域管理,体位変換など受動的廃用予防は,発症直後からなされるべきであり,また筋力維持訓練,座位耐性訓練,立位・歩行訓練など能動的廃用予防も遷延性意識障害などの合併症がない場合には,病態,合併症などのリスクを考慮したうえで1~3週間以内に開始されるべきである.そうなれば,障害が軽度の例では早期リハビリテーションのみで社会復帰が可能な場合も多い.また,より専門的なリハビリテーション的介入が必要な例でも廃用を最小限に食い止め,治療期間の短縮,最終機能の向上につながるだろう.
この数年,リハビリテーション医学関係者の間では,早期あるいは超早期における能動的廃用予防の是非が問題になっている2,3).しかし,中庸的観点からすれば,欧米でのデータをみてもいわゆる早期に関しては全体として問題があるとは思われない.また超早期に関しては症例ごとの対応選択問題と言うべきであろう.すなわち,発症直後からの能動的介入については,推進者,反対者ともに確証を欠き,二分法的結論には至っていない.今後,症例を層別化したうえで脳血流自動調節能障害などの問題点を具体的に取り上げ,その功罪を勘案・検討すべきであろう.
一方,わが国における早期リハビリテーションの現状は,と振り返るとはなはだ戸惑う.脳卒中患者の長期に及ぶ入院期間の問題,リハビリテーション専門病院に送られてくる患者の実態を眺めると,基本的なリハビリテーション的介入の欠如を痛感する.その原因として,医療者側では,知識(廃用に対する深い理解)の欠如,リハビリテーション医と他科医との関係,病院システムの問題,などが挙げられよう.一方,患者側にも退院に対する圧力の欠如,社会的要因としての在宅上の諸困難など多くの問題がある.リハビリテーション関係者として注意すべき点は,他の医療者への啓蒙と協調への努力はもちろんであるが,患者の機能障害,能力低下を改善する武器としてリハビリテーションが有用であることを具体的に示すための手段を洗練化することに努めることだろう.そのためには,患者の層別化した帰結研究の一層の推進などが必須となる.
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