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はじめに
巧緻性とはなかなか難しい概念である,これに近い言葉にスキルというのがある,強いていうと,スキルは後天的に学ばれるものであり,巧緻性のほうは必ずしもそうでないという暗黙の了解があるらしいが,それほどはっきり区別されているわけではない1).
さてそのスキルについてJohnson(1961)2)は,skill=speed×accuracy×form×adaptabilityであると述べている.これはスキルというものをいくつもの次元からとらえようとしたものである.猪飼(1973)3)も同じような試みを行い,スキルは正確性,敏しょう性,持続性の3つに展開できるとしている.
いずれにせよ,巧緻性とは何か,というところから話を始めなければならない.広辞苑第4版によれば巧緻性とは,「①たくみでこまかいこと,②精巧で緻密なこと」である.この定義は,私たちの日常的語感にほぼ一致している.
結局,巧緻性のキーワードは「こまかさ」と「たくみさ」の2つである.前者は暗黙のうちに「手先を使うような作業」を,後者は「脳のはたらきを要する作業」を想定しているのではないだろうか.つまり巧緻性とは,単なる手指の運動能力のことではなく,細かな対象操作の能力のことを指している.巧緻性向上のために,操作の体験すなわち作業を利用することの意義はここにある.
ところで,リハビリテーションまたは作業療法の文献において,巧緻性をテーマとしたものは非常に少ない.稀な例として,田村(1964)4)の成人脳性麻痺の巧緻性訓練を目指した作業療法(当時は職能療法と言っていた)に関する論文がある程度である.彼は各種の手工芸を機能訓練上の意義から体系づけることによって,成人脳性麻痺者の機能向上をはかろうとした.しかし残念ながら,その後の報告は見いだすことはできない.
筆者はしばらくの間,健常者の日常的動作の中の手の使われかたを研究テーマとしてきた5).そこで得られた知見をもとに考えてみると,巧緻性の向上に必要であろうことのいくつかを,筆者なりにまとめてみることができる.もとよりこれは1つの試案であるが,「巧緻性の訓練法」としてできあがったシステムが見あたらない現状にあっては,試案の提出に意義があると考え,以下に述べてみることにする.
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