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はじめに
私たちが食事をする場合,上体を起こした姿勢で,手で箸,フォーク,スプーンなどを使って,食器から食物を口まで運ぶと同時に,口を開いて食物を口腔内に取り込み,よく咀嚼してから嚥下する.一般に嚥下障害(swallowing disturbance)というのは,この一連の摂食行動の最後の嚥下がうまくいかない場合を想像する.例えば,食道癌があって食物の通りが悪いとか,子どもでも扁桃腺炎でのどが痛いため,咀嚼した食物が飲み込めないといった場合がその典型である.そして,その原因疾患が治癒すれば問題はなくなり,その点これらの嚥下障害の回復が直ちに以前に獲得されていた摂食(phageinギリシャ語,to eat)行為の完全な回復となる.
それでは新生児や非常に幼い乳児はどうであろう.彼らは抱いてもらって,母親の乳房や哺乳ビンからお乳を吸乳し嚥下している.自分で体を起こし,自ら手を使って吸乳するわけではない.これは前述の完成された人間の摂食行為からはほど遠く,人間としては未発達な摂食行為である.しかし,お乳を自ら吸乳する口のまわりだけは一応発達しているのが普通である.ところが,未熟児室にいる未熟児や脳損傷児では,よくその吸乳すら自らできないため,管を経鼻的に胃まで入れてもらって,お乳や液状の栄養物を全く機械的に注入してもらっている.自発呼吸すらうまくできないため,気管内挿管されて人工呼吸をしてもらっている者もいる.こうなると,狭義の嚥下障害(swallowing disturbance)だけではなく,完全に経口摂取ができないdysphagiaである.実はこのような障害児に対して,経口的な哺乳,さらに後になって食物の経口摂取ができるようになることが,リハビリテーションにおける子どもの嚥下障害(dysphagia)では大きな課題であるといってよい.したがって,ここでは狭義の意味のswallowing disturbanceではなく,経口摂取が障害されているdysphagia(一連の口腔,咽頭および食道相における嚥下障害のすべてを含む)としての嚥下障害について述べることにする.
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