巻頭言
在宅医療について
澤浦 美奈子
1
1大田病院理学診療科
pp.587
発行日 1991年6月10日
Published Date 1991/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552106836
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最近,主として老人医療の分野において,厚生省は在宅医療を強調し,実際にそれを推進する政策を次々と打ち出している.リハビリテーション医学の立場からすると,条件が整えばより正常に近い形で生活できるという点で,在宅医療は望ましいことと思われる.私自身の入院の経験からも,病院での入院生活は,病状が悪いときはありがたいが,病状が回復したときや安定しているときには,場所や時間,行動範囲などに様々な制限があり,かなり不自由に感じられることがある.したがって,在宅でひき続き療養が続けられる条件が整えば,在宅療養は特にお年寄りにとっては幸せなことであると思われる.
私自身は約20年間,当院で往診を行っているが,10年前と今回,その症例をまとめて,いくつか考えさせられたことがある.まず一般病院で在宅医療の対象となる人は圧倒的に老人が多いということであった.93.3%が60歳以上であり,開始時平均年齢は75.9歳であった.対象疾患は脳卒中が圧倒的に多く40.5%を占めた.しかし,10年前は約50%であったので,比率は10%下がっている.第2位が悪性腫瘍で12.9%であった.昨今の状況をみていると,この悪性腫瘍の比率が急速に上昇すると思われる.大病院に入院している癌の末期患者は,有効な治療手段はないし,長引くということもあり,自宅に帰されることが多い.中にはIVHをつけたまま,十分な指導も紹介状もないままに退院し,近くの病院でみてもらいなさいと言われ,家族から往診依頼がある.家族も困っており,すぐに医療の継続が必要であり,往診せざるを得ない状況である.今後このような例が増えるのではないかと懸念している.
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