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はじめに
乳幼児期の脳性麻痺の病型変化に関する報告ついては,Ingram1)以来Paine2),Hansen3),国内でも岡4),江藤5)など多くの報告がある.しかし,青年期以後成人・老年期の神経学的所見はほとんど記載をみない.
重度脳性麻痺者は成人期になっても動作を促されると特有の姿勢をとる.その中には典型的な緊張性頸部反射に基づくと思われる姿勢も含まれる.歩行中に警笛などでバランスを崩す現象もモロー反射の影響だと思われる.だが,これらの患者にベッド上で誘発を試みても,出現しないことの方がむしろ多い.特有の緊張性頸部・腰部反射などの原始的反射は,幼児期では明瞭であっても,成人期では関節拘縮の有無に関係なく,ベッド上の検査では認めにくくなる.発達とともに消退すべき原始的反射が消えずに残るのが脳性麻痺の特徴なのであろうが,これをベッド上で再現させることができない神経生理学的理由まで検討を深めた論文は極めて少ないようである.
高齢脳性麻痺者に関する神経学的病態や後発的合併症を含む障害像は不明な点がきわめて多い.Bleck6)も成人以後の脳性麻痺に関する記載がほとんどないと述べている.わずかに頸椎症について,いくつかの報告と治療成果が発表されているが,これは成人・高齢脳性麻痺者の部分的な問題に過ぎず,治療成果も10年以上の長期間を観察したものは稀である.また,老人と呼べる高齢に達した脳性麻痺者については,存在の把握さえもが不足している.そのため,医療上の問題点や対応策が過去に検討された形跡は,筆者の渉猟した範囲ではきわめて稀である.
本稿では老人脳性麻痺者の障害像,リハビリテーション医学上での問題点,リハビリテーションの実際を述べることが課せられた責任である.しかし,上に述べた理由から,これを十分に満たすことは困難であり,ここでは筆者が過去に報告7,8)した成人脳性麻痺者にかかわる運動能力と健康管理上の諸問題を補足,整理して,これに対する対応策を考察・検討する.
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