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骨粗鬆症の終末像
日常生活にも耐えられないほど骨の力学的強度が低下し,物を持ち上げたり,体を捻っただけで脊椎に圧迫骨折や変形を惹起したり,同一平面上で倒れただけで四肢長管骨骨幹端を中心に骨折が生じる状態が骨粗鬆症と定義されている.骨粗鬆症患者はこれらの骨折を受傷するか,身長短縮,円背,慢性腰背痛などに悩まされるが,いずれの状態も致命的なものではなく,骨粗鬆症に終末像が存在するという表現は適切でないかも知れない.しかし,内科の医師が大腿骨頸部骨折を骨粗鬆症の終末像と位置づけているのは,この骨折型が骨粗鬆症の諸症状の中でも機能的予後が極めて悪いためであろう.
大腿骨頸部骨折患者193例に対して人工骨頭置換術を施行し,その後運動訓練をして退院する際の移動能力の推移を調べてみると,約1/2に相当する97例は同一の能力で退院できた.しかし,残りの96例は1段階以上歩行能力が低下し,37例(19%)は以前に何らかの形で歩行ができていたのに歩行不能になって退院した(骨折前から寝たきりの症例は除いてある)1).このように手術技法,術後訓練に関して遜色のない公立老人専門病院においても20%近くが寝たきり老人になるというほど大腿骨頸部骨折患者は重大な機能低下を招く.そして,同じ病院の理学療法士が208例の大腿骨頸部骨折患者の退院時の移動能力と退院先を調べた結果では,T字杖または四点支持杖で歩行できた93例中75例(81%)は自宅へ退院している.しかし,歩行不能となった症例については73例のうち13例(18%)しか自宅に退院できず,他の全例は他病院や特別養護老人ホームに移っている2).筆者の調査でも3),また群馬県や神戸市での調査でも,寝たきり老人の原因疾患の20%近くが骨折を中心とした老人の骨・関節疾患に由来していることを考えると,致命的ではない骨粗鬆症に終末像が存在することは否めない.
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