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はじめに
一般に運動機能の発達や知的発達に障害をきたす領域の心身障害児では,口腔の運動機能にも発達の遅滞や障害が認められることが多いが,重症心身障害児ではさらにこれらの症状がほとんど必発するものとなり,その発達遅滞や障害の程度も重度となる.その結果は食物摂取の困難や不能につながる.
身体の他の部位の運動機能の発達や障害に関する研究・臨床と比較して,口腔機能の発達や心身障害児におけるその障害に関する研究や臨床は従来なぜか関連分野でもあまり扱われてこなかったと言っても過言ではないであろう.したがって,現在,心身障害児の口腔機能障害に対する適切な対処あるいは治療が広く実行されている状態であるとは言いがたい.しかし,近年,関連する学問分野において口腔機能の発達や障害に関する研究も徐々に増えてきており,また一部の施設や養護学校などの現場においても,あるいは障害児の親でもこの問題への関心は高まりをみせており,適切な対処を求めた試みも増えてきている.
心身障害児の口腔機能障害を理解するためには,頭頸部の解剖学的知識および口腔生理学的知識を必要とするが,加えて必要となるのが口腔機能の発達的側面に関する生きた知識である.健常児の生後の早い時期(特に乳児期)における口腔機能の発達は摂食機能の基本的動作の発達とほぼ一致するので,特にこの時期における口の動作の発達変化に関する知識と,それを鑑別できる観察の目を持つことが重要である.
心身障害児の口腔機能障害はさまざまな症状として現れてくるが,その症状を発達的にとらえることも重要である.症状対処的な介助や療法(いわゆる対症療法的アプローチ)に終始していては成果は望めない.現れている症状に対して発達療法的にアプローチすることが是非とも必要である.
このような観点から,正常摂食機能の基本的部分の発達(すなわち生後初期の口腔機能の発達)の概略に触れ,また主な機能障害の症状とそれに対して我々が実行している発達療法的な対応の仕方について誌面の許す限りにおいて解説を試みてみたい.
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