Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
臓器移植,癌の告知,ターミナル・ケア,QOLなど,最近の医療は“医の倫理”を中心に目まぐるしく変遷するなかで,当然,脳卒中に対するリハビリテーション・アプローチも少しずつ変りつつある.
過去20年の脳卒中リハビリテーション(以下リハビリと略す)は救命救急とあわせて機能障害(impairment)と能力低下(disability)を主体とするものから,患者の“生きがい”――“人生の質”(QOL:quality of life―この言葉は適当な日本語訳がないためにQOLと,そのまま用いられている)を求めるようになってきている.
わが国での脳卒中リハビリにたいするこのような傾向は米国において1970年代の後半よりさかんとなり,Kottkeは“今後のリハビリは延命(length of life)より価値ある人生(meaningful life)を考えるべきである”1)としている.ここで注目すべきことはQOLという言葉の変わりに彼はmeaningful lifeといったことで,米国でもQOLという言葉が一般医療者には当初は余り馴染まなかったと思われる.そして1979年のハワイでのAmerican Academy of Physical Medicine and Rehabilitation(AAPMR)とAmerican Congress of Rehabilitation Medicine(ACRM)では“QOL”が学会の標題となった2).
このような時期に,米国リハビリ医学会は脳卒中のリハビリがどのように施行されているかを顧みる必要をみとめて1979年に全国的なレベルでの調査研究に着手した.
その目的とするところは,合法的なリハビリ・プログラムをつくることにあり,あわせて,得られた結果から各リハビリ病院,施設に対してより効率的なリハビリの方法をフィードバックすることである.
詳細は,さきに“脳卒中のリハビリテーション:日米両国の比較”と題して本誌で報告したが3),日米両国の脳卒中リハビリで特徴ある相違点としては以下のようなことがあげられる.すなわち,(1)脳血管障害の発症は日本のほうが若年層に多い(18歳から81歳,平均58歳.米国では20歳から99歳,平均69歳).(2)リハビリ病院での入院期間は日本では平均138日であるのに比して,米国では37日と著しく短かい.(3)退院時での機能回復は日本のほうが良好であるが,退院後6カ月目には米国の患者は退院時よりさらに機能が向上しているのに対して,日本の患者は逆に少し低下していることなどである.
既報においては紙面の関係でQOLに関してふれることができなかった.そこで,本稿では脳卒中患者のQOLに関して日米両国の患者の相違点について得られた興味ある結果に若干の考察を加えて報告する.
Copyright © 1987, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.