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はじめに
――リハ医療施設づくりから地域サポート・システムづくりへ――
「先進諸国においては,一方では,精神障害者に対する包括的な保健医療の供給体制が図られるとともに,他方では,立法によって,精神障害者が他の障害者と同様の社会福祉の諸サービスを享受できるような施策化が図られてきた経緯がある.しかしながら,これらに係る我が国の制度,事業面の立ち遅れについては否定できない現状であり,今や早急に是正を図るべき重要な社会的課題となっている」,「精神障害者の社会生活の援助体制づくりに不可欠な地方公共団体の衛生部門と福祉部門の連携……に当たっては,精神障害者が単なる病者というだけでなく,社会生活遂行上の困難,不自由,不利益を有する障害者であるという点を共通理解とする必要がある」
以上は,昭和61年7月25日に公衆衛生審議会が厚生大臣に具申した意見1)の一部である.些か長くなったが,わが国の精神科リハビリテーション(以下リハと省略)の基本的な考え方の転換を明確にし,今後の方向を示唆する重要な部分なので引用した.
わが国の精神科リハの歴史については,4年前,リハ医学会創立20周年に際してまとめた2)ので省略するが,当時「病院内リハからコミュニティ・ケアへ」と表現したリハの方向の変化はさらに発展して,精神保健行政の責任を都道府県段階から市区町村にまで広げ,精神障害者の訓練を主体としたリハ施設の増設はもちろんとして,地域で生活する精神障害者の暮らしを地域社会の中でサポートするといった方向へと,その目標を明確にしつつある.
障害者の範囲が国連の規定や諸外国の法令に比べて狭く,障害の種類により不当な区別があるという質問に対して,厚生大臣が「精神障害者の場合は,これは医学的保護の下におく必要があり,また,その医学的保護の中から回復した場合は普通になって社会復帰でき……」(参議院社会労働委員会3).1984.4.24.)と答えて,福祉対策は不要としてから僅か2年半,地域では保健所の社会復帰促進事業(デイケア,生活教室,患者クラブなどと呼ばれている)がふえ,民間団体や精神障害者家族会などの手による共同住宅や共同作業所が次々と設立されている.これら医療外の施設の急増は,精神障害者の問題が医療や医学的リハだけでは片付かないことを端的に表現しており,厚生大臣がどう答えようとも,精神障害者に医学的対応を越えた福祉的施策が必要なことを事実として示しているといってよい.
引き続いて昭和62年1月21日,労働省は身体障害者雇用審議会の答申を受けて,雇用促進法の対象を精神障害者をも含む障害者全般に拡大する法の一部改正を国会に提出することになったし,1月30日には厚生省が精神障害者の欠格条項の見直しを各省庁に要請している.先進諸国に20年の遅れを取ってきたわが国の精神障害者リハ対策も,今や大きな転換点に立っているのである.
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