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はじめに
現代は,人類と素材の関係が基本的に変化しつつある時代であると言われる.歴史的に見ると,人類は木,動物の皮,植物繊維といった自然物質を使ってきたが,製鉄工業とかガラス製造工業も自然物質利用の発展した形態と言うことができる.しかし最近は,物質の構造に対する物理的,生物学的理解が深まり,今,われわれは個々のニーズに対応した物質を,原子レベルで作り上げる基礎知識や生産技術を手に入れつつある.すなわち,これからは,いままでのように必要な物質を自然界の中から探すのではなく,自分たちの目的に最も適した物質を原子レベルからまったく新しく作り出すことが可能な時代になったのである.
義足の材料,とくにこれから我が国でも増加が予想される高齢の切断者では,航空機や宇宙機器材料と同じようにか,あるいはそれら以上に,軽くて丈夫であることが要求され,先端技術による新素材開発にもっとも期待を寄せたい分野である.しかし義足の材料は,工業的には典型的な少量消費材であり,現段階では義足のためだけに新素材が開発されることを望むのは現実的ではない.現段階では,他の目的のために開発された新素材を義足材料として利用することになるが,義足のような多品種少量消費材では,高価な工作機械を特別な材料のためだけに投入することは困難なことが多いから,加工性が良くないと実際にはなかなか使用できないことが多い.日本の場合,さらに公費支給制度で定められた価格内で製作可能という実際的枠がある.
以上のような制約があるから,工業用に優れた新素材が現われても直ちには義足に使用できないことが多いことを心得ておく必要がある.従来の例を見ても,新素材の簡便な加工法が見いだされて,小規模の義肢製作工場でも加工が可能になるか,公定価格が引き上げられてから,始めて一般に使用されることが多い.新素材には,無機材料(金属,非金属),有機材料,複合材料などがあるが,本稿では,義足の軽量化に役立つ可能性の高い金属,複合材料を中心に述べたい.
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