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はじめに
脳血管障害のあとにみられる続発性てんかんは,脳の傷害部附近のニューロンの過剰発射に基づく焦点性てんかんの一型といえるが,脳腫瘍や外傷性脳損傷による二次性てんかんや原発性(真性)てんかん等に較べるとそれ程関心をもたれていたとはいえない.しかし,リハビリテーション(以下リハ)施設で脳卒中の患者が多数扱われるようになった現在,リハスタッフが頻々と痙攣発作を目撃するようになり,リハ医療上も実態解明がのぞまれるようになった.従来から,運動麻痺の重い者,脳内血腫除去術を受けた者,脳塞栓患者等にてんかん痙攣が多いようだ,といった漠然とした意識が当事者間にあるにはあったが,しかし,この様な痙攣は如何なる患者に現れるのか? 痙攣予知は可能か? リハ阻害因子であるか? 対応は? 等々の問題について改めて考えてみると,総合的に解明されていなかった事に気づくのである.
てんかん発作は,国際分類(1981)でpartial seizuresとgeneralized seizuresに二大別され更に細分化されているが,本稿で取上げようとする病態は,分類表の中の,二次性全汎化発作に発展する部分発作(partial seizures evolving to secondarily generalized seizures),ないしは,強直-間代性全汎発作(tonic-clonic generalized seizures)の何れかに該当するところの意識障害を伴う全身痙攣発作である.確かに全身にマーチするJackson型発作を認める場合もあるが,緊急に呼ばれて駈けつけた時点では既に強直-間代性の全身痙攣になっていて起始の状態を知り得ない事の方が多いし,卒然と大発作(grand mal)型の全汎発作で始まったと思われる例にも遭遇する.この点についてMarquardsen1)は,典型的なJacksonian seizuresは認めなかったとさえ云っている.この痙攣発作は,脳卒中発症後2週以内ではearly seizures(Louis)2)と呼ばれて生命予後不良の徴とされるが,以後のlate seizuresにしても,発作を繰返えせば性格の変化や痴呆化を招き,重積状態になれば生命の危険に繋る.また,発作自体が次の発作の誘発因子にもなるとされ3),そのような意味でも極力抑制しなければならないものである.
この痙攣発作は,リハ訓練が軌道に乗り出した頃に発現する傾向があって驚かされる(因みに下記の調査対象の痙攣患者の入院日数は平均212日,入院から発作までは平均88日であった).また発作後に1~2時間以上の意識混濁が続くので,脳卒中の再発と紛らわしい事もある.時には全身痙攣を起こす他の疾患との鑑別が必要となり,そのためにも本病態の診断に有用なパラメーターが欲しいわけである.
脳卒中後のてんかん痙攣をリハの立場で検討した業績は少く,就中その実態を定量的に扱おうとすると,対照に何を選ぶかが問題となるが,幸いな事に当院には全患者に関する様々な統計資料があるので,これらと痙攣患者のデーターを比較することが出来た.本稿ではその様にして検討した結果を中心に述べるが,その成績は,昭和56,57年度の全痙攣者25名と,昭和55,58,59年度の中から無作為に抽出した同23名の合計48名について行ったもので(脳卒中発症前に痙攣の既往はない).これを昭和56年度全退院者の統計結果と比較したものである.
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