Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
わが国の障害者対策は1949年制定の身体障害者福祉法によりようやく本格的な出発を見せ,そこでは「更生」=職業的自立が法の目的とされた.その後,法目的に「生活の安定」が加えられ,家庭奉仕員制度や身体障害者療護施設等の施策も登場してきたとはいえ,身体障害者の約6割が60歳以上となり,重度化も進んできた今日もなお,主要な目標が職業的自立である法の基本的枠組みは変わっていない.同法が定める授産施設は職業的自立のための訓練施設であるが,年間就職率が約1.5%に低下し1),すでにその本来的性格を失っている.この事態は精神薄弱者授産施設など他の授産施設でも同様である.こうして各種授産施設は「雇用の困難な障害者」が雇用形態をとらずに長期にわたって働く場となっており,これを利用する障害者は毎年約2,000人ずつ増えて,1987年現在約4.3万人である.他方,このような授産施設にも(障害が重すぎる等の理由で)入所できない重度障害者が,いわゆる無認可の小規模作業所を利用するようになり,毎年約3,500人ずつ増えて,1988年現在では約3.1万人となっている.
以上のように,雇用や自営業でなく,かつ短期間の訓練でもない労働形態が広がり,今日では福祉的就労という言葉も定着した.福祉的就労に従事する障害者はまもなく確実に10万人を越えるが,その低工賃をはじめとする処遇上の問題の解決よりも,就労を希望しつつも福祉的就労の場すら得られないでいる重度障害者をなくす方が,より切実緊急の課題とされている現状である.
福祉的就労の急増という現象には2つの意味が含まれている.一つは,どんなに重い障害をもっていても働いて社会参加したいという要求を実現するという権利保障の側面であり,もう一つは,各種雇用対策の実施にもかかわらず,あるいは本格的な雇用対策の不在によって,重度障害者が一般労働市場で雇用されず,福祉的就労の場に滞留させられているという側面である.
1960年制定の身体障害者雇用促進法は数回の改正を経て,法対象範囲をより重度者に絞ること,重度障害者を雇用率制度および納付金制度上2人分にカウントすること,重度者向けの助成金等の充実を図ることなど,重度者により手厚い対策を講じる方向での改善を見せてきた.1976年の法改正,特に納付金制度のもたらした政策的効果に比べると,1987年の法改正は,対象となる障害の種類の(理念的)拡大や職業リハビリテーション体制・専門職制度の確立などを柱にしており,もともと短期間で効果が生じる性格のものではないが,地域障害者職業センター等を基盤にした新しい事業が動き始めている.
しかしながら,障害者の実雇用率は頭打ちの傾向を見せており,公共職業安定所に登録されている有効求職者の中には,直ちに就職が見込まれる障害者はかなり少なくなっている.従来の雇用促進手法の延長では法定雇用率の達成は絶望的である.第三セクター方式を含む重度障害者多数雇用事業所,福祉工場の定員の切下げと柔軟な事業運営の導入,授産施設と企業との連携による重要障害者等特別能力開発訓練事業,地域障害者職業センターにおける職業準備訓練,民間事業所との連携による職域開発援助事業などの新しい対策に期待が寄せられているが,これらの施策効果の推移をみながら,近い将来,日本的な保護雇用制度の創設を含む本格的な検討が必要とされるように思われる.数千円から3万円程度の工賃の小規模作業所や授産施設と,10万円を越える最低賃金が原則とされる一般雇用との間には差がありすぎるので,この中間に新しい雇用形態が位置づけられてもよいと考えられるのである.
以上のような現状認識の下で,「雇用が困難な障害者の就労」をめぐる問題を考察することとする.
Copyright © 1990, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.