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はじめに
生体の示す応答(response)を検知する場合,応答の生ずる場をいくつかのレベルに分けて考える必要がある.最も巨視的な応答は個体(organism)レベルでの行動であり,これを観察し,その変化を定量化できれば行動学的応答の指標が得られる.臓器・組織レベルの応答の検出には主として電気生理学的な手法が利用され,細胞レベルあるいは分子レベルではさらに生化学的な検討も必要となる.
一方,刺激は応答を惹起するために外界から加えられるが,中枢神経系では主として視覚,聴覚,皮膚感覚,固有感覚などの感覚刺激が用いられる.感覚刺激はそれ自体が皮質感覚運動野を介して統合を受け,刺激の種類に応じた特異的な応答をもたらすと同時に,一つの警告信号として非特異的な覚醒応答を生み出す.
肢位変化による反応時間(RT)の測定は,刺激と応答を考える一つのモデルとなろう.RTは行動覚醒(behavioral alertness)の研究にしばしば用いられ,行動学的反応(reaction)の指標となる.促通肢位(FP)は筋の伸展による固有感覚刺激とみなされるが,これによってRTの短縮が得られることはよく知られている1).一側上肢をFPとして対側上肢のRTを調べると,RT短縮とRT延長の2種類の影響が認められる.RT短縮はFPの非特異的な覚醒効果によるものであり,RT延長はFPが同名筋に相反抑制を起こす特異的な効果によると考えられる2).
ところで,感覚刺激による中枢神経系の応答を臨床的に検出しようとする場合,一般的に容易に用いられるのは電気生理学的な手法であり,脳波がその中心となる.これは臓器・組織レベルでの応答の検出であり,行動レベルでの応答との対応があれば行動の変化を表す指標となり得る.
刺激による脳波変化を視察によって判別することは難しく,定量化も困難であることから,最近では脳波等電位図や周波数分析などコンピューターを用いた定量脳波学的な方法が一般化されている.脳波等電位図はδ,θ,α,βの各周波数帯域ごとに頭皮上の電位分布を計算することによって得られる.また体性感覚誘発電位(SEP)や視覚誘発電位(VEP),聴覚誘発電位(AEP)などの誘発電位も感覚刺激による中枢の応答を検出する方法として広く利用されている.最近では皮質運動野に対する頭皮上からの電気刺激や磁気刺激による運動誘発電位の記録も可能となっている.
こうした電気生理学的な応答の臨床応用に際しては大きく3つの目的が存在する.一つは神経学的補助診断として用いる場合であり,遠隔電場電位としての短潜時誘発電位の記録などは損傷部位の決定に有用である.中枢神経損傷後の機能評価と予後予測は回復神経学(restorative neurology)の立場では極めて重要な問題であり,SEP中間潜時成分の振幅や中枢伝導時間の測定,脳波等電位図上の電位変化などはこうした面で客観的な指標を与える可能性が高い.第3に,治療法の適応決定と治療効果の判定に対する応用がある.特にリハビリテーションの分野ではこの面での客観性が十分に保証されているとは言いがたく,上に述べたような電気生理学的な応答を応用する意義は大きい.
以下に刺激による応答を用いた検査が,こうした目的に沿ってどのように利用され得るかを,我々の得た知見を踏まえて述べてゆくこととする.
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