巻頭言
倫理的職業としての医療
江藤 文夫
1
1東京大学病院リハビリテーション部
pp.917
発行日 1989年12月10日
Published Date 1989/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552106172
- 有料閲覧
- 文献概要
西洋での医者に関する古い言い習わしに,「医者の3つの顔」というのが知られている.治療をしているときは天使の顔,報酬を請求するときは悪魔の顔,そしてどちらにも関係しないときの顔は学者の顔というものである.この言い習わしではどの顔が最も望ましいとも決めていない.キリスト教社会では自明のことなのかもしれないが,客観的で冷たい自然科学が最も尊重される現代においても,ときどき持ち出される言葉である.
古典的にプロフェッションと呼ばれる職業は,医師と法律家と聖職者の3つだけであったという.いずれも中味が同業者以外にはわからない職業であり,質の悪いサービスを受けると重大な結果を招く恐れのあるものである,一方で誰が資格認定できるかという問題があり,プロフェッションの言葉の由来は興味深い.したがって,医師の資格認定においても,日本における国家試験のような形態をとらない国もある.学力試験の成績は,少なくとも治療をしているときの顔とはあまり関係のないことを利用者のほうがよく知っていたからであろう.他の2つのプロフェッションも医療の場にはしばしば関与する.医療訴訟に対する保険に加入しないと,病院勤務もできない.多くの病院にはチャペルがあり,ホスピスには聖職者が欠かせない.わが国では自然科学の技術として西洋医学を受け入れた段階で,聖職者とのかかわりは薄れたようである.しかし,医療が倫理的な職業であることに変わりはない.そして,今日では複雑な倫理的問題に直面する機会が増している.
Copyright © 1989, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.