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はじめに
古くて新しい問題としての「医療ソーシャルワーカー」(Medical Social Worker,以下,MSWと略する)は,法律的に資格化されたものではないが,事業や業務としては,保健所法(1947年法律第101号)第2条に,「公共医療事業の向上及び増進に関する事項」として保健所の事業として規定されている,また,近くは1987年に改正なった精神保健法第38条に,精神病院の管理者の努力義務として社会復帰の促進のための相談,援助等が規定されているほか,更に1986年に創設された老人保健施設の施設及び設備,人員並びに運営に関する基準(1988年厚生省令第1号)では,老人保健施設には相談指導員を置くこととされている.
このように事業や業務としては,すでに従来から国が認知した形で「医療社会事業」や「公共医療事業」(Medical Social Service)と明記されながら,しかも,それに従事する職種名として,ケースワーカーという呼名が登場するのは,1957年「国立結核療養所における医療社会事業の運営について」の中で,療養所課長が国立療養所長への通達として,医療社会事業を円滑に実施するため,1名以上の専任ケースワーカーと,なるべくその補助者をおくこと,とした時である.
1974年には,診療報酬点数表で精神科ソーシャルワーカーの設置を要件の一つとして精神科デイ・ケア料の算定が認められているが,この時に精神科ソーシャルワーカーと呼ばれている.
その後,同年10月「社会福祉事業法第2条第3項に規定する生計困難者のために無料又は低額な料金で診療を行う事業について」という社会局長,児童家庭局長通知の中で,医療上,生活上の相談に応ずるために医療ソーシャルワーカーを置き,かつそのために必要な施設を備えること,として,医療ソーシャルワーカーと呼称している.
欧米におけるMSWの起源は古く,イギリスで1895年にまでさかのぼることができる.アメリカにおいても20世紀の初めに誕生をみている.
わが国でも,1926年,済生会病院にMSWが採用されたのをはじめとして,1929年聖路加国際病院には社会事業部が創立されている1).
今更ながら,今日になってMSWの重要性,必要性が説かれるまでもないことだが,種々の条件により2),いまだにMSWの法律的な資格制度がないことは残念である.しかし,たとえ資格制度はなくとも,社会や病院の中における医療社会事業を行うMSWの果たす役割の重大性は誰もが知るところである.
今回,1989年2月,厚生省から出された「医療ソーシャルワーカー業務指針検討会報告書3)」はMSWの資質の向上を図るため業務指針を作成したとしているが,MSWを認知するに十分な報告書となっていて,社会的にMSWを位置づけたことにおいて注目に値する.以上,この報告書に従って,MSWの業務を中心に解説を試みる.
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