Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
頸椎症は,椎間板の変性や椎間関節の変形性変化によって引き起こされる疾病である.その基本的な形態学的変化は,変性した椎間板組織の脊柱管内への膨隆や骨棘の形成である.そしてこれらが,脊髄や神経根またはそれらへの血行にたいして,圧迫因子となっていることが,症状発現に重要であると考えられている.したがって圧迫されている神経組織や血行に対して外科的に除圧をはかることが最も根本的な治療方法といえる.
しかし一方,その骨棘や椎間板組織の膨隆などの圧迫因子の大きさと症状の強さには必ずしも相関がないこと,またその大きさは有症状で発見される脊髄腫瘍の大きさにくらべてはるかに小さいことなどから,本症は単純な圧迫性疾患ではないことが推定出来る,事実,頸椎を後屈した場合に症状を誘発したり症状が増悪したりすることが多いこと,除圧をしないで単なる安静のみでも症状が改善することがあることなどが臨床的にも経験され,本症の症状発現には動的因子(dynamic factor)が関与していると考えられている.
この動的因子を軽減することは保存的治療でも可能で,事実,頸椎の牽引や装具療法などの椎間の固定や安静を目的とした保存療法が効果のあることは,日常よく経験される.
圧迫に続いて二次的におこる炎症反応も,症状発現に関与していると考えられる.さらに疹痛自体が,筋のスパズムや血管の攣縮といった悪循環を形成し,さらに症状を増悪させうる.このような二次的と考えられる要因に対しても,保存療法が効果をあげることが期待できる.
一方,外科的治療には必ず外科手術としてのリスクがある.頸椎症の大部分の症例では,このような外科手術を受ける程には悪くないことも多く,また体質的な脆弱さや慢性期の筋力低下など,本来,手術療法では解決できないと考えられる要因も存在する.さらに頸椎症の自然経過をみると,ある程度の障害は残すとしても,症状が固定しそれ以上進まないことや,症状によっては自然治癒することも経験される1).
また保存療法の有効性がその後も長期間にわたって持続することも経験される2).ここにも保存療法が選択される理由が存在する.
保存療法を行うにあたっては,その効果を定期的に評価すべきで漫然と行うべきではない.改善が十分でない場合や無効な例では別の保存療法の他,手術治療も常に考慮すべきで,保存療法を長期に続けたために手術の時期を失したということのないようにすべきである.
Copyright © 1989, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.