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はじめに
末梢神経麻痺は外傷,炎症,代謝障害,中毒,虚血,遺伝等様々の原因によっておこる.本論では主として臨床上,最も遭遇する機会の多い外傷性末梢神経麻痺の物理療法について述べる.これらの原因の如何を問わず,末梢神経麻痺のリハビリで最も大切なことは,原疾患の治療とともに二次的合併症をできるだけ少なくすることである.一般に物理療法は運動療法をスムーズに進めるための手段として用いられることが多いが,脱神経筋の変性過程を遅らせるための低周波刺激のように物理療法が主目的の場合もある.
末梢神経本幹には皮神経や指神経を除き,運動神経,知覚神経,自律神経の三種類の神経線維が複雑に絡みあって走っているのでこれらが単独で損傷を受けることは極めてまれである.しかし神経損傷後に生じる症状について検討するときはこれら三種類の神経を分離して考えるほうが分りやすい.すなわち運動神経が麻痺すると1)筋力低下,2)末梢循環低下,3)浮腫などが,知覚神経麻痺では1)シビレ,2)知覚脱失,3)疼痛などが,自律神経損傷では1)発汗異常,2)血管運動神経麻痺,3)まだ正確な原因は不明であるが反射性交感神経緊張性ジストロフィー症などが起こることがある.これらの症状はおたがいに密接に関係しており,なんら対処することなく放置すれば筋肉萎縮や関節拘縮などの二次的合併症がもはや回復不能になってしまう.末梢神経の回復は1日1mmといわれており再生神経が目的とする効果器に到達するまでにはかなりの時間を要する.従ってその間は無為に待機するのではなく運動療法や物理療法などのあらゆる手段を駆使して前述した二次的合併症をできるだけ最小限にするように努めなければならない.しかし麻痺のレベルやその程度のいかんによってはむやみに長期間に渡って麻痺肢の治療や二次的合併症の予防ばかりに固執しないで,上肢では利手交換訓練,下肢では補装具による歩行訓練を早くから考えなくてはいけない場合がある.
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