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はじめに
四肢麻痺患者では,尿意が無い,うまく排尿が起こらない,思わぬ時に突然尿失禁するなどの排尿異常があり社会的に不便な生活を強いられるばかりでなく,適切な管理ができないと尿路合併症を併発して腎不全に陥ることにもなりかねない.四肢麻痺者の尿路予後を左右する因子としては,発生した頸髄の麻痺が膀胱支配神経経路にどの程度障害を与えているか,急性期,回復期に尿路合併症を防ぎ最大限の膀胱機能回復を目指す適切な治療を受け得たかどうか,固定期に残された自己管理能力がどの程度かなどが重要である.
排尿機能を支配する神経系は骨盤自律神経および陰部神経などで,これらは仙髄を中継して頸髄中の特定の神経伝導路を通って大脳と連絡しているので,排尿が頸髄損傷の状態(完全麻痺か不完全麻痺かあるいはその程度)に左右されることは明白であり,これが不可逆的なものであれば膀胱機能回復の可能性と程度は受傷した時点で運命づけられているとも言えよう.急性期弛緩麻痺に陥った膀胱が,過伸展による筋萎縮や細菌感染による繊維化などを起こすと神経機能が戻っても予想どおりに回復しない恐れがあるから,そうならないように管理される必要があるし,回復期には適切な排尿のリハビリテーションを続け,機能回復に限界ある場合は泌尿器外科的処置を加える必要がある.そして排尿のリハビリテーションも,また社会復帰するさいの尿路管理の能力についても,手指の機能がどの程度残っているか(頸髄麻痺のレベルによって決る),つまりADL能力と無関係ではありえない.また,排尿訓練を行う際に起こり得る自律神経過緊張反射や痙攣の問題も排尿管理を阻害する要因となるのでその対策も重要である.
われわれは過去5年間に労働福祉事業団総合せき損センターで急性期から治療して退院した四肢麻痺者132名について,泌尿器科から見た問題を治療結果から振り返って考えてみたい.
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