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おそまきながら最近わが国でも脳死に対する関心が高まっているが,論議に先立ってまず十分な理解が必要である.その意味で本書は英国の医師に向けて書かれた脳死の基礎的な解説(ABC)であり,1980年におきた“不幸な出来事”,すなわちBBC放送のパノラマ事件を契機としてBrit. Med. J. に連載された記事が基本となっている.したがってわが国でもこの問題に興味のある医師はもちろん,一般の医師も常識としてこの程度の知識をもっていなければならない時期になっていると言えよう.
そもそも脳死は「生きた体に死んだ脳」と表現されるが,一方では「脈の触れる死体」とも表現される.これは未だに論議の絶えない脳死を“生”とみるか“死”とみるかの観点の相違を示すものであるが,脳死そのものの病態はただ一つの筈である.ただ,広く一般的に用いられている「全脳髄の不可逆的な機能停止」なる定義と,本書の表題になっている脳幹死(brain stem death)を脳死とする英国流の考え方があり,両者のいずれをとるかは未だ議論の余地があるところである.もちろん本書では後者の考え方にもとづき,脳死の判定は脳幹機能の不可逆的喪失を証明することであり,その妥当性についても詳しく説明されている.すなわち脳でも心臓でも全細胞の死に先立って有機的な機能を果さなくなれば,それぞれの臓器の死と考えねばならないことが繰返し強調されている.この前提が脳死(脳幹死)でも時にはなお脳波活動や脳循環機能が残存するような事実の説明には不可欠で,全脳死(brain death)あるいは大脳死(cerebral death)とのくい違いによる混乱を避けることもできる.
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