巻頭言
ヒトの骨盤,股関節
嶋 良宗
1
1和歌山医大整形外科
pp.171
発行日 1984年3月10日
Published Date 1984/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552105123
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直立二足歩行を,日常生活の基本動作としているのは,ヒトだけである.ところが,この直立二足歩行は,その歴史が短いためか,未だに十分に完成されたとはいえないようである.そこで,「年齢をとると,あし・腰からやられる…」といわれるように,緩急自在に体を動かすことに支障をきたすようになるのが一般である.高年病リハビリテーションの領域だけでなく,高齢化社会のことが,何かと世論の俎上にのぼっている時でもあり,この「あし・腰」について,いささかの考察を加えてみようと思う.
同じ霊長目でもヒトは,テナガザルが樹から樹へ飛び渡る際に示す腕わたりなどの樹上適応型運動様式をとるのではなく,地上適応型の運動様式を営んでいる.しかも,ゴリラなどのこぶし歩行よりも進化した直立二足歩行が,ことに,走ることができる唯一の動物である.この運動様式に適応した結果,ヒトは特徴ある形態を特殊化した.たとえば,脊柱をS字状に彎曲させながら,状態をもち上げ,内臓を下から支えている骨盤が上げられる.その骨盤は,直立したあしと腰を股関節で連結している,歩行にとって肝要な場所でもある.ヒトの骨盤は,他の霊長目と比べて高さが低くなり,左右の幅を増し,奥行が浅い特徴を示している.そのために,仙腸関節面は寛骨臼に接近し,状態の重さが両足に伝わり易くなった.大坐骨切痕はヒトだけに認めるが,女性ではとくに大きく,それだけ産道の広さが確保できて,90度上体を起こしたため,曲りくねってしまった産道に対応している.さらには,男性で下前腸骨棘が良く発達し,早く走り歩くのに適応している.
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