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はじめに
上肢の機能評価は,広義には,1)形態,2)感覚,3)関節の可動性,4)筋力,5)動作機能の各評価から構成される.形態の評価は,奇形,欠損,変形の有無と内容にかかわるものであり,関節の可動性の評価は,他動的に動かされうる範囲の過不足の点検をさす.これらの2つおよび感覚,筋力の評価法は,おおよそ確立されており,人による大きな違いは見当らない.
しかし動作機能の評価(狭義の機能評価)となると事情は異なる.公表されていないものを含めると,実態は千差万別であろう.
意識するとしないとにかかわらず,狭義の上肢機能評価に関して,臨床家は2つの目を持っている.1つは,患者の手と腕が「どんな動きをそなえているか」であり,もう1つは,その手と腕が「何を生み出すことができるか」である.この2つの視点は,状況に応じて使い分けられる.
手や腕の機能として求められるものは,最終的には,後者すなわち「生産性」もしくは「実用性」であることに間違いはない.何を,どれだけ,正確にかつ持続して遂行できるか,こそが眼目である.代表的な作業課題を選び,所要時間や出来高を測って正常者のそれと比較することが評価の主な手段となる.Jebsen,et al(1969)1)の手の機能テスト,今田・他(1972,引用文献は1977)2)の「手指機能指数(FQ)テスト」,Smith HB(1973)3)の「Smith式手の機能評価」,横溝・他の「MQDAPTS法による身体機能測定法」(1974)4,5),Bell,et al(1976)6)の「手の巧緻性測定」,嶋田・他(1977)7)の「MTMを導入した動作テスト」など,公表された種々のテスト法は,ほとんどがこの系列にあると考えてよい.たとえば今田・他の手指機能指数テストでは,つまみ,回外,フィンガーローリング,掌面固定,タイミング,格子模様描き,両手協調など10項目の作業課題を設け,動作の成功回数,所要時間その他を測定し,結果を1つの指数(健康で不器用な人が100となるような)として表現するようになっている.こうした評価方法は,機能訓練の最終的な成果を測ったり,職業能力を予想したり,集団の間で成績比較を行ったりするとき,非常に有用なものである.
一方で,上述の2つの視点のうちの前者,すなわち「動き」そのものを分析する必要に迫られることも少くない.作業の遂行能力の低下が,力の弱さや作業の未習熟というよりも動作パターンの異常から起こっており,しかも訓練によってその改善を測ろうという場合,こうした評価の必要は特に高いものとなる.この際の評価の主眼は,動きと静止に関する動作パターンの正確さ,反復性もしくは持続性の確実さである.この分析結果と原因疾患とを合わせて考えるなら,訓練によって何を矯正すべきか,あるいは何を補うべきかがわかる.
本稿では,「生産性(作業能力)」の評価は他文献にゆずり,動きのパターンに主眼をおいた評価について述べることにしたい.これは筆者の長年の関心事の1つであるが,しかしそのために続けている研究はまだ中途段階にある.したがって現時点でできる範囲内で,評価の内容について考えてみることにしたい.
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