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はじめに
昨年,われわれは健常手の把握の様式について定性的研究を行い,14種の把握の型を明らかにした3).これは臨床における手指のフォームの記載を容易にすること,ならびに訓練目標の指標を得ることを目的として行ったものである.これに続くものとして本研究では,同し静的な手の使用のうち,残りの非把握について取り上げた.ここで「静的」とは一定時間指の動きを伴わない動作を指す.多くの動作は動的なものであるから,静的過程は一部を占めるにすぎない.われわれは手動作全般の分析を目ざすものであるが,これを静的過程(把握および非把握)と動的過程にわけて順次手がけることにしたのは,ひとつには分析法の違いが想定されたためであり,第二には静的パターンを,動的パターンの分析の基礎におくことを考えているためである.
ここに述べる非把握のフォームの分析も,既報の把握と同じく,手が関与する日常生活動作(以下,ADL)訓練をより合理的に行う資料を得ようとの意図から出発している.おびただしい数にわたる日常の非把握動作をいくつかの基本的パターンに分けられるとしたら,それらを知ることは,よりよいADL機能を目ざす訓練にとって利するところが大きいはずである.
従来,非把握に関する研究は把握に比べ著しく少ない.
Herig(1934)1)は道具の形態の恒常性に注目し,手の動作と道具の系統的分類を試みた.彼が道具との対応関係においてとらえた手の動作の中には,非把握的な使用におけるいくつかのフォームが例示されている.
Napier(1956)5)は把握に関する論文のはじめの部分で,手動作を把握と非把握に区分したが,後者についてはほとんど触れることがなかった.1962年6,7)には手の進化を取り上げて,開披(divergence),収斂(convergence),把握(prehensility),対向(opposability)の順に進化が進むとした.前二者は非把握に類するといえるが,彼の目的は系統発生学的考察であるから,ヒトの手の仔細に触れている訳ではない.
Yamashita(1963)10)は機械工学的な立揚から手作業の理論的分析を行い,指の曲がり,指同士の接触の有無,手掌と指の接触の有無を目印に,A~Fの6つのタイプを分類した.この内,A,B,C,F(手で物体を押える,体を支える,押しずらす,すくうなど)の4型は非把握に相当し,非把握のいくつかの様式をものがたるものとなっている.
上羽(1970)9)は手の運動機能を,母指および指の位置,運動の目的などから5つに分類したが,この内,圧排とかぎ下げの2つが非把握とみられるものである.
Yamashitaの考えを基本とした長尾(1971)4)は対象物との相互関係,すなわち対象物との接触の有無,対象物にかける圧力の有無,対象物の拘束の有無,対象物の固定(手内)の有無から手指動作を分類した.この内,対象物の固定されていないものが非把握的な動作に相当するとみられる.
以上の研究はいずれも,動的な過程を含む手動作全体を対象としたものである.そのため,非把握の静的なフォームに限定して,そのフォームを知ろうとするわれわれにとっては,求める精度が必ずしも期待と一致しないものとなっている.さらには,これらがいずれも演鐸的に導かれた理論分類,ないしは偶然的観察の所産だという点をあげることができる.この方法には,印象の薄いものを取りこぼす危険がある.
われわれは,既出の把握の研究同様,実際の手の使用例を出発点とする帰納的方法を用いることにした.観察もれの危険は,観察項目をできるだけ多く設けることによって最小にするよう努力した.分類の区分は,リハビリテーションの臨床で役立つ細かさを目安として定めた.なお,ここで非把握とは,把握(物品を片手でとらえて空中に保持できるもの)以外のすべてを指している.
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