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はじめに
足指の変形を足の構造と機能に関連して考える場合には,足全体を観察する必要のあることは自明のことであるが,与えられたテーマが「足指の変形」であるため,原則的に中足指節関節(以下M-P関節とする)を含めて,それより遠位の変形について述べることにする.
人類は頭脳と手によって他の脊椎動物とは区別される特徴,すなわち文明を築いたとはいうものの,それは人類が起立して歩行したことによって二本の前足が手として専門に仕事をすることが可能となり,手と脳がお互に刺激しあってその能力が飛躍的に発達した(用不用の法則)1)ためともいえる.
このように人類の生活状況,発展に関係深い足であるため,やはりわが国においてもて古代人と現代人との足には,それぞれ一般的な足,足指の特徴があるように思われる.
たとえば,実際にわれわれが見ることのできる縄文時代後期から弥生時代の遺跡に残されている足跡をみると,ほとんどが内反母趾,内転足の傾向があり,前足部が幅広くなっている.そのうえ足跡で判断しているため断定はできないにしても,母趾(第1趾)が第2趾よりも長い,いわゆるエジプト型の足指が断然多くみられている.
その後,時代とともに日本の古代人に特徴的である内反母趾,内転足傾向は次第に軽減してきていたが,近年わが国の生活環境が西欧化するにつれて,今度は母趾の縦軸と第1中足骨の縦軸とが外側(腓骨側)に角度をなす外反母趾もみられるようになってきた(図1).
しかも,外反母趾があってM-P関節部に疼痛が強く慢性化している場合は医療の対象となり,その数も漸次増加している.
また,従来治療の対象となってきた内反足や尖足(あるいは下垂足)については,ヒポクラテスの時代から記載があり9),治療法さえ述べられているが,この外反母趾については,今のところ18世紀にいたりヨーロッパにおいて医療の対象になりだしたことが定説となっている.そして,今世紀にいたってはきわめて一般的な疾患となり,住民の20数%が有痛性外反母趾によって悩まされているという発表さえある2).一方,わが国においては,前述のごとく近年ようやく一般的にも注目されるようになった.
なお,外反母趾はわが国においても慢性関節リウマチの進行例の大多数にみられていたが,日本人が慣用した履き物と床面の堅さの関係となどから,現代ほど医療上,社会生活上の問題にはならなかったように思われる.
以上のようにきわめて簡単に日本人の足指の変形を母趾ひとつについて観察してみても,歴史的,社会生活的に相当に興味深いものがあり,足,足指の研究は今後ますます意義深いものになると推察される.
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