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はじめに
リハビリテーションとは,障害を受けた者を,彼のなしうる最大の身体的・精神的・社会的・職業的・経済的な能力を有するまでに回復させることである,という定義はよく知られている.また昨年は国際障害者年にあたり,“完全参加と平等”という目標の下に,リハビリテーションの理念も再確認され,障害者が,その障害にもかかわらず,人間らしく生きることができるようにするための技術的・社会的・政策的対応の総合体系がリハビリテーション体系であるとされた.このようなリハビリテーションを実現していくための技術体系の基礎知識として,反射の概念はどのようなものか,またリハビリテーション医学ではどのように理解して利用すべきなのか,ここにまとめてみよう.反射の本来の機能,その意味するところを知ることにより,リハビリテーション医学における反射概念の位置づけを明らかにしようと試みるわけである.
リハビリテーションは目標指向的(goal-oriented)であるといわれている.そしてリハビリテーションの過程は問題解決の過程となっている.そこで,問題解決は理論的根拠→現象の見方→問題点→方法→目標到達の過程で成り立つというKuhn5)のパラダイムから話を始めよう.われわれは意識するしないにかかわらず,何らかの立場(理論的根拠)を持っている.そこで,どのような立場にあるかによって,ものの見方は異なり,したがってリハビリテーション上の問題点や重点のおき方がかわり,その解決方法や到達点は違ってくる.例としてこれまでの脳性麻痺治療の変化を追ってみよう.整形外科の立場では筋・骨恪系を取り上げて変形拘縮が主たる問題点となり,これに対する治療手段は観血手術や矯正装具の使用であり,その目標は可能なかぎり正常姿勢(ただし静止姿勢であった)を得ることであった.神経学では陽性徴候や陰性徴候の有無が問題となる.その結果,たとえば痙縮に対して筋弛緩剤を使用する,あるいは神経外科的操作が加えらえた.筋力低下には抵抗運動をはじめとして,いわゆる筋力増強訓練が行われた.さらに脳性麻痺児には運動技能の低下がみられるとして,技能を学習させようという心理・教育の立場もある.これらは脳性麻痺児の持つ問題を,それぞれの立場が問題解決に対して持っている手段からみて,その問題の一側面を切り取ったものであり,とかくリハビリテーションがかかげている全人間的アプローチがされず,多くの問題点を未解決にしたまま現在に至っている.リハビリテーションが障害者の諸問題に対して,多専門職種によるチーム・アプローチをとるのであれば,その理論的根拠としての共通概念が必要であったのだ.
現在,リハビリテーション医学で用いられている反射という用語も,神経生理学,条件反射学,さらに刺激―応答モデルによる古典的行動主義から新行動主義の理論まで,広範囲に及んでいる3,9,10,22).それらの立場の相違は大きく,とても統一的に扱うことはできない.若干の共通点として,人間を含む動物の行動を説明する体系を作ろうとしていること,行動は一定の刺激―応答関係から成り立つと仮定すること,その間の法則定立を試みること,などがあげられる.
ところで,はじめのリハビリテーションの概念にもどってみると,患者・障害者を回復させるとは,最終的には彼らが社会に適応すること,いいかえれば環境に合った適応行動が可能になるように仕向けることである.それゆえ,リハビリテーションの立場から反射を理解するというのは,適応行動にとって反射はどのような働きをしているのか,そこにみられる法則は何か,それを規定している構造は何か,を知ることになる.
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