視座
運動神経支配機構の可塑性
津山 直一
1
1東京大学整形外科
pp.1111-1112
発行日 1980年12月25日
Published Date 1980/12/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408906244
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ヒトの運動神経の支配様式はでき上れば一定不変というものでなく融通のきく可塑性が十分存在し,このことが運動練習や学習の効果の上がる基礎となつており,整形外科の機能再建,PTやOTの機能訓練,治療体操もこの原理にもとづくものである.先天的に上肢機能の失われたサリドマイド児や,脳性麻痺児が如何に巧みに足指を使つて巧緻な作業を遂行するかは驚くべきものがあり,筆者は両足を使つてラジオを組み立てた脳性麻痺児を経験している.これらの人々の日常生活動作はほとんど足を使つて行つているが,このような人では当然大脳皮質の中心前回にある運動野のPenfieldの機能局在図は変化し,大きな手指の中枢に代つて足指の中枢が少なくとも機能的には大きくなつているであろう.
これらは運動神経支配機構の可塑性を端的に物語るものであるが,運動神経中枢が完成した成人においても認められるこのような可塑性は,現段階ではニューロンのシナップス前線維末端から放出される伝達物質の量が変化することに関係があるとされ,くりかえし使われるシナップスでは伝達効率がよくなると考えられており,効果の持続の長いシナップスの存在も知られている.また,ニューロン自体の形態学的な変化すなわちシナップスの成長や肥大が起こるとする考えや,記憶を保持するにあずかる特殊な物質の増加が可塑性を与える因子の一つであるとする仮説もある.
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