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はじめに
1980年代の幕開けにあたって,その年頭の特集に「リハビリテーション医学教育」がとりあげられたのはまことに時宜を得たことと思われる.というのは,来たるべき10年間におけるわが国のリハビリテーション医学・医療,またそれと不可分の関係にある障害者福祉が真に稔りある発展を示すか,形骸化したものに終るかの岐路を決定するものが,まさにこの医学教育にほかならないと考えられるからである.
現在わが国のリハビリテーション医学・障害者福祉のおかれている状況にはこれまでになく厳しいものがある.外的な条件としてはいうまでもなく「医療費削減」,「福祉見直し」などの言葉であらわされる全般的な風潮が,医療と福祉の全分野におしよせており,それが特にまだ新しい,比較的弱体なこの分野に殊更に強くひびいて来つつあることがあげられる.しかしそれよりももっと重要なのは,学問としてのリハビリテーション医学が,その発展過程における一つの重要な段階にさしかかっているという内的な条件である.
まずリハビリテーションの発展を阻害する外的な条件についていえば,現状はたしかに厳しく,その壁を突破することは容易でないように思われる.しかし大局的に見れば,医療と福祉の中でリハビリテーションが必要不可欠なものであることの認識と,リハビリテーション・サービスへのニーズのたかまりとは,もはや後戻りのきかない,一つの大きな流れとなっているといってよい.最近のことだけを挙げても,1979年春の金沢大学医療短期大学部への理学療法学科・作業療法学科の設置(3年制ではあるが初の国立大学でのPT,OT教育の開始),同年末の国立身体障害者リハビリテーションセンターと国立身体障害者職業リハビリテーションセンター(所沢)の開設,また同年秋に打ち出された国立病院・療養所での脳卒中リハビリテーション計画(一万床)構想などにみるように,文部・厚生・労働などの行政の側からの一連のリハビリテーション関連施策はこれまでになく活発である.これらのそれぞれについても種々の問題点が指摘されており,すべてが理想的に進んでいるのでは勿論ない.しかし根底においてはこれらは国民の中でのリハビリテーションのニーズのたかまりの反映であり,決して一時的なものではない.1981年の国際障害者年の運動を通じて,この点は更にひろく国民の中に定着するであろう.それはリハビリテーション医療についてはその「普及」,すなわち,何時でもどこでも,それを必要とする人が適切なリハビリテーションを受けられるような状態への要望となって,ますます強くあらわれてこよう.
そこであらためて問題となるのが,このような国民のニーズや要望が正しく行政の軌道にのり,正しい方向で解決される態勢が作られるか,表面的な形だけの対応に終るかの「岐路」である.ここではリハビリテーション医学・医療に携わる人々の層の厚さと,その学問・技術の水準の高さが決定的なものとなってくる.一万床を予定している国立病院・療養所での脳卒中リハビリテーション構想一つとってみても,それだけの規模のリハビリテーション・サービスを荷なう医師(PT,OT等ももちろんであるが)をいったいどのようにして確保するのかが大問題であり,そのいかんによって成果は大きく左右される.ここにリハビリテーション医学教育がこの「岐路」を左右する重要さをもってくる最大の理由があるといってよい.以下具体的にリハビリテーション医学教育の現状といくつかの問題点について述べたい.
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