巻頭言
重度脳性麻痺者はどこでどう生きるのか
鈴木 正里
1
1大阪経済大学
pp.823
発行日 1979年11月10日
Published Date 1979/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552104222
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脳性麻痺者で就職できるのが1/4,働いて得た給与で独立自活できるのがその2/5とすれば,彼ら10人のうち9人までは,親兄弟や親類縁者あるいは国や自治体からの援助がなければ生きられないわけである.援助の内容は千差万別だろうが,人間生きることがいちばん根本だから,現在の社会では生きる拠点である家庭を自力で創れるかどうかを基準にして対策を分けるべきであろう.つまり,健常人に準じた生活ができる者とできない者では,別の対策が必要だということである.といっても,特定の個人についてその何れかを判別せよというのではない.個々人についてはまず自力で家庭を創れるように万全の援助をしてやるべきで,それが「更生援護」だと思うが,しかし現実には家庭を創れない人々――更生援護の落ちこぼれの大集団が存在することは事実で,脳性麻痺者の多くはこれに含まれるだろう.この人たちは,どこでどう生きればよいのか.
一般に考えられる対策は「在宅ケア」であろう.この構想のなかには,地域住民の「精神革命」が不可欠の一環として組みこまれているようで,たしかに福祉の根底は,施策や制度よりも人々の意識の変革であることは認めざるをえないが,現在の社会が「差別する人間像」を創りだす構造的体質をもつ以上,これに対処する姿勢と行動綱領がなければ,絵に画いた餅になりかねない.結局,「大多数の脳性麻痺者は家庭にあって無為徒食,悶々の日々を送っている」ということになる.しかし,「家庭」がある間はまだましで,親が死に兄弟姉妹も自分の生活を守るのに精一杯となると,彼らには生きる空間すらなくなる.所得保障もホームヘルパーもあったものではない.
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