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Ⅰ.疾患の概念
―序にかえて―
ベーチェット病(Behçet's disease,以下べ病と略称する)は,全身の諸臓器に,多彩な再燃性炎症病変を形成し,きわめて遷延性・難治性の傾向がつよい疾患である.本症が,H.Behçetによって,はじめてひとつの疾患単位として認識された当初(1937)は,口腔粘膜,眼部,および外陰部の再発性アフタ性潰瘍が3主徴(trias)とされたが,その臨床概念には,漸次に修正や補足が加えられつつ現在に及んでいる.診断基準に関しても,Curth(1946)1),Mason & Barnes(1969)2),Ehrlich(1972)3)など諸家の提案があるが,今日本邦で広く用いられているのは,厚生省調査研究班の作製になる表1のもの(1972)である4).各診断基準の間の相違点は,疾病観の変遷を反映する資料としても興味ぶかいが,今回は詳述する紙数がないので,第1に,発現頻度のかなり高い皮膚症状に主症状としての評価を与えるかどうか,第2に,診断決定に必要な条件を主症状のみの組み合わせにしぼるか,または副症状にも何らかのウエイトを附するかどうかが,最も意見のわかれる論点であることのみを指摘しておく.本邦の基準は,表のごとく,皮膚症状を含めた4主症状(4 major criteria)の組み合わせで完全型と不全型とに分類し,副症状の有無は診断そのものをは左右しないという見解をとっているが,2主症状以下の組み合わせを持つ症例でも.たしかに,関節,消化管,大血管,中枢神経などの臓器障害を示す場合があり,診断の立脚点には,なお多分に流動性が残っている.それ故,表に示した副症状(minor criteria)にも十分な意を止めて,仮に本症を診定する基準を充たさない例においても,その観察や管理には細心の慎重さを心掛けるべきであろう.
本症は,元来,中東や北欧諸国に多発し,アジア圏には稀とされていた疾患であるが,今次大戦後,とくに1948年以降に,本邦において異常な発症数の増加を来し,世界的な注目を集めていることは周知のとおりである.1972年に行われた全国疫学調査5)の結果では,推定患者実数8,000名以上,人口100万対有病率は62.7名に達することが知られた.完全型は男子に多く,性比は1.78であるが,眼症状を欠く不全型が女子に多いために,不全型に限れば男女ほぼ同数である.男女とも20歳~30歳代に発症のピークがあり,45歳以上では急速に減少するが,一旦発症したのちはきわめて遷延性の経過をとり,発症減少年代に入っても病勢の停止することはない.
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