巻頭言
福祉の現況に思う
河邨 文一郎
1
1札幌医科大学
pp.877-878
発行日 1975年11月10日
Published Date 1975/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552103425
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ここ数年,福祉という言葉を聞かぬ日はない.社会福祉,老人福祉,身障者福祉……といった具合に政治家もマスコミも,これこそ時代の焦点とばかりに,この言葉をふりまいている.大変結構な話ではあるが,手放しで喜ぶわけにはいかない.なんでもタダにして,予算の大盤振舞をするのが福祉だと勘違いしているのではないか,と思われるふしがあるからだ.福祉とは道楽息子だという誤解を一般社会に与えたら,それは福祉の進展にブレーキをかける結果になりかねない.私はそれをおそれるものだ.
老人や乳幼児の医療費を一率に無料化するとか,生活保護費を大幅に引上げるとか,それらは決して悪いことではないが,老人や生活保護者にもいろいろある.重症身障者を御殿のような住宅に安楽に住まわせ,毎日の仕事はメシを食うだけという状態にしたら,税金を払う国民だけではなく,本人たちからも不平の声があがるだろう.豪華けんらんなスポーツの殿堂を作り身障者に独占させ,一般人をシャットアウトしたとしたら,それにも問題がのこる.無思慮で独善的な福祉行政は,行政官やその取り巻きのマスターベーションにすきず,身障者自身をスポイルするものだ.
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