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はじめに
1.重症心身障害児のリハビリテーションの意義
重症心身障害児(以下「重障児」と略す)の福祉対策は昭和36年,わが国最初の重症心身障害児施設「島田療育園」が誕生したことにはじまった.重障児の生命の尊厳が認識されたことはきわめて意義が大きい.およそ人間は,何人といえども存在理由をもたない人はいない.現実の存在価値および体験価値にきわめて貧しい存在ですら,なお,価値を実現すべき機会をもっているのである.重障児のように重度の知能障害と重度の身体障害をあわせもっており,極度に心身両面の能力をうばわれた限界状況におかれていても,なお存在している価値を明らかにしなければならない.重障児の実存について認識を深めることが重障児の福祉,リハビリテーションの基盤であろう.
重障児の福祉対策,リハビリテーションは重障児の存在とともに始まるのであり,人間の再発見ともいえる.人格から人格への働きかけと自己実現への援助がその根底となる.Martin Buberによれば1)「人間は単独者として生きることは正当な生き方ではなく,不可能である.人間は,ともに存在する他の人間とのかかわりにおいて人間である」という.さらにGabriel Marcel2)は,Buberの間柄の哲学に考察を加えて,「ある特定の存在者が自己自身,また特定の存在者である他者に呼びかける.しかもそれは彼らそれぞれの領域を超えながら両者に共通の場で交わらんがためである.かくて強調されなければならないのは,明らかに間柄である」といっている.このように間柄とは真実の対話の基礎をなすものではなかろうか.
このような立場が一貫して流れているかぎり,重障児の福祉,リハビリテーションは原点的役割を占めている.
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