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はじめに
脳生麻痺(以下CPと略す)児に対する治療の考え方は,乳児発達に対する研究の進歩,神経生理学の治療への応用等の開発により,近年急速に変貌をとげつつある.装具・自助具等によりADLを満せばよいという所にとどまらず,正常の運動パターンに近づける,すなわち正常化することを治療の目標としてきている.どこまで正常化できるかは,脳損傷の程度にも大きく左右されるであろうが,どれだけ脳損傷による運動障害を発達神経生理学的に,発達運動学的に理解して治療しているかにも依存しているといってもよいであろう.また,実際の治療にたずさわるものにとって同時に重要なことは,そのような理解のもとに児を全体として十分に観察することである.現在,広く国際的に行われている方法の基礎もこれらのことにより作りあげられているといっても過言ではない.
Vojta法もその例外ではなく,小児神経学者である彼の鋭い観察眼により体系づけられているといえる.それは後に述べる姿勢反射の発達時期による段階分け,正常・異常の弁別にもあらわれている.次に自明のことであるが,早期治療こそがCP児の運動能力を引きだし得る重要なポイントであり,いかなる方法であれ早期治療なくして良好な成績をあげることは困難である.Vojta法もその例外ではなく,逆に新生児・幼若乳児期より治療のルートに乗せ得るという大きな利点をもっている.
しかし,残念ながら,現在,日本では0歳児の早期治療が叫ばれてはいるものの,我々の施設においても初診時年齢が0歳であるものは半数にも満たない現状であり,治療以前の大きな問題を残している.すなわち,出生時期より危険因子をもつ児を十分に追跡し,CPに対する疑いがあれば,即治療という体制が必要とされる.
脳損傷による運動障害はただ単に筋トーヌスの量的異常として考えられるばかりでなく,筋トーヌスの時間的・空間的分布異常も大きな要素として理解されるべきである.特に空間的分布異常は,一定の刺激に対し一定の型(stereotyped pattern)を示すことともいえるが,それにより早期の診断も可能となるのである.しかし,そのstereotyped patternが固定化すれば,児は皮質等の上位中枢よりの随意的コントロールが出現する発達時期になっても,複雑・多様な運動を獲得することができず治療効果は著しく滅少してしまう.それゆえ,治療はstereotyped patternが固定する前に行われるべきであり,また,筋トーヌスの量的異常にばかりとらわれることなく(痙性を減弱させる,低緊張の筋力増強を図ることばかりでなく)分布異常に対してもなされるべきである.
Vojtaは現在西ドイツKölnにおいて,脳損傷による運動障害の治療を行っているが,その方法によれば前に述べたように,新生児期より治療の開始ができ,それは主として筋トーヌスの分布異常に向けられている.彼は自らの早期治療の方法により,将来CPになる可能性の大きな,危険因子を複数持つ児が,正常化されるという成績を発表しているが,その結果はKöngの発表とともに,我々CPの治療に従事する者に一つの方向を与えている.
筆者は,1973年5月機会に恵まれKölnに滞在しVojta法に接することができ,また帰国後も都立北療育園においてVojta法を追試し,その結果をまとめる段階にまでは達していないが,一定の筆者なりの考え方をもって理解・治療することができる段階になったので,診断法ならびに治療法の原理と実際を述べてみたい.
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