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はじめに
進行性筋ジストロフィー症は,筋疾患の中では最も患者数が多く,したがって,往々進行性筋萎縮症という名称と誤まって同義に用いられたりしている.しかし,進行性筋萎縮症というのは疾患名ではなく,その中には本態を異にする多くの疾患を含む疾患群の総称であり,筋ジストロフィー症はその中の最も代表的なものといえる.
筋疾患は,
1.筋自体に原因があって発症してくる筋原性のもの
2.神経に異常があって,二次的に筋の変化を生じてくる神経原性のもの
の2つに大別される.進行性筋ジストロフィー症は前者の代表であり,その他に多発性筋炎,筋緊張症などがある.後者には,筋萎縮性側索硬化症,多発性神経炎などが含まれている.
1850年,Aranは進行性の筋萎縮を示す疾患についてはじめて報告し,1852年,Meryonは骨格筋のgranular and fatty degenerationをきたす疾患を記載している.1855年,Wachsmuthは60例の筋萎縮症についてまとめているが,この頃はまだ筋原性,神経原性などのはっきりした区別がなされていたわけではない.
1868年,Duchenne1)は,今日Duchenne型と呼ばれている筋ジストロフィー症の1型をはじめて詳細に報告している.彼は臨床症状の他,筋生検による組織学的所見も記載している.現在,筋生検は筋疾患診断のための重要な検査法の1つとされているが,当時Duchenneの行なった筋生検は人々の強い非難をあびたのである.
筋ジストロフィー症が他の筋萎縮性疾患から区別され,1独立疾患として確立されたのはErbによってである.1891年,彼2)は本症にDystrophia muscularis progressivaという名称を与え,他の疾患と区別した.現在本症はDystrophia musculorum progressivaと呼ばれているが,いつからこのように呼ばれるようになったかは詳らかでない.
その後本症は主として臨床病理学的な面より研究され,最近になって生化学的,生理学的方法などの導入により,その研究は長足の進歩をとげた.しかし現在のところ,本症の治療法はもちろん,発病の機序もまだ完全に解明されるに至っていない.
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