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はじめに
小児の切断者は,その出現率がきわめて低いことから,これまでほとんどがみすごされ,また義肢についても,単に大人のものを小さくすることだけですまされてきた.
しかし,医学や工学の立場から,その科学技術の進歩を基盤として,人間と機械を1つのシステムとしてつなぎ,人間にとって最適な義肢を求める研究が盛んにおこなわれるようになってきた時代背景の中で,サリドマイド薬禍による先天奇形の問題が世界的に大きな社会問題としてとりあげられ,多くの関心をよび,小児切断者用義肢の特殊性にも,ようやく目が向けられるようになってきた.
諸外国においても,この問題への関与の歴史はそれほど古いものではないが,それでも小児切断クリニックの中心的存在ともいえるアメリカのU.C.L.A. においては,1954年から「Child Amputee Prosthetics project」がはじまっており,豊富な臨床例をもとに,多くのすぐれた研究が報告されている.13).
小児の問題が成人と異なる最も大きな点は,小児の神経・骨格が未発達であり,発達に応じた処方がなされるべきであることはいうまでもないが,この成長発達にともなって生起する本人や親の心理的社会的な問題が,義肢の装着・訓練と密接なかかわりをもっており,従って,広く小児の行動一般をふまえた義肢のあり方について,総合的に考えていかねばならないこと,発育に応じて義肢をとりかえていく必要があり,また義肢が小児の発育・活動を防げないようにしなければならないことなどがあげられよう6).
小児の時期の適切な処置が,将来の障害を最少にするであろうということはすでに明らかであり,わが国においても,日々成長する小児の特質をふまえた適切な処置をすすめるため,単に医学的な立場からの追求だけでなく,小児の切断に対する本人や親の心理的適応援助をはじめ,将来的な教育・福祉に至るまで,各領域がチームをくみ,広く総合的に考察し,問題の解決をはかることの重要性が認識されてきた.
このため,東京都補装具研究所では,これまで,多くみすごされてきた,これら小児切断者の処遇に関する諸問題に対し,総合的に考察することを目的として,昭和48年度から「小児切断プロジェクト」を発足させた.
このプロジェクトでは,諸外国における臨床例・活動実例・研究報告・実験報告をもとに,わが国においても,わが国の現状に即した問題の対処のしかた・処遇上の理念を構成していこうとするものである.本稿は,過去1年間に得た資料の一部を報告することによって,小児切断者に対する理解と関心を深める一助としようとするものである.
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