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Ⅰ.序
本稿では,身障者ということばを使っているが,肢体不自由者(児)を中心として,その心理に関する一般的な問題を述べることにしよう.特定の感覚器官の障害,すなわち視覚障害や聴覚障害も法的をには身体障害であるが,これらについては別の項に譲ることにする.また身体ということばも主として四肢および体幹,すなわち肢体の意味で使うが,時として頭部,顔面あるいは視聴覚器官などを含めることもあり,かならずしも厳密に区別して使わないので,あらかじめお断りしておく.
さて,ここに多言を要するまでもなく,身体は,人間の存在の基礎である.哲学的にしろ心理学的にしろ,さらに医学的にしろ,身体のさまざまな現象や偏異を心理現象ないしは精神現象からかけ離れた別個の存在と規定することは恐らく不可能である.さまざまなレベルにおいて,身体の障害や偏異は,その個人の心理に直接間接影響する.同時にまた,心理的要因が身体的諸側面に大きな影響力を有することは,心身症の例をまつまでもなく明らかなことがらである.通常,身障者の心理といえば,身体の障害が心理面にどう影響するかという一方向のみが問題とされやすいが,人間であるかぎり,逆の方向も十分に考察の対象としなければならない.本質的には人間一般の心理のとらえ方と,なんら異なる点はないが,強いていえば,器質障害や発達遅滞を除いて,身障者の心理の一般的問題は,「適応(adjustment)」に還元できるといえよう.そしてともすればその個人の適応を阻害する条件の中に身体障害がなんらかのかたちで介在するということになる.急性期はともかく,一般の身体障害者の適応状態は,けっして悪いものばかりではなく,むしろ大多数は良く適応しているが,そこに達するまでのプロセスが身障者心理のもっとも基本的課題であることは明らかであろう.
身障者のリハビリテーションの過程では,まさしく身体的回復は心理的回復と多かれ少なかれ並行する.また,いわゆるハビリテーションのグループでも,発達途上における心理的要因は,予後の適応に重要な意味をもっている.したがって,身体的な回復に挑んでいる専門領域といえども,患者の心理にはきわめて敏感でなければならないし,また身障者の一般心理についても,十分理解して対処することが必要であろう.
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