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はじめに
人間の心理は,いうならば身体的,生理的な諸条件に加えて,歴史的社会的な環境的諸条件によって規定されます.脳性マヒ者の心理的諸問題を課題とするにあたっても,この基盤のうえに考察することは論をまちません.心的活動としての外界の反映―感覚・知覚,内界の反映―感情・意志・記憶,それらの総合―学習・思考・行動などを含む人格の差異,形成,変革における諸問題を追求することを意味します.
いまさら申し上げるまでもないことですが,児童憲章,第11条には,
すべて児童は,身体が不自由な場合,また,精神の機能が不十分な場合に,適切な治療と教育と保護が与えられる
とあります.
それでも,脳性マヒ児童は,いまだに多くのものが教育を‘免除’されています.また,家族や本人の努力で就学できても,心ある教職員の努力を権力的に弾圧し,学歴を得るための能力競走が強制される‘教育’が行なわれがちな‘学校’を考えると,学校に行っているとか卒業したといっても,脳性マヒの障害をもつ児童にとって,現状はきわめてきびしいものがあります.
このような条件は,家庭内についてみても,様相の深刻さは‘教育’を越えているともいえます.すなわち,重症児(者)殺し,心中があとを断たない事実が端的にそれを示しています.また,重症児(者)施設も,‘重症児(者)がいると家庭が破壊される’から施設が必要だという考えが中心で,‘重症児の教育,治療,福祉’は観念的にはともかく,現実には‘まとめて世話すれば安上がりだ’という方針に従属させられています.
重度な障害をもつ年長脳性マヒ者の諸問題と関係して,はやくも20年近くの歳月が経過したにもかかわらず,この雑誌の読者に伝えるものがわずかであることを残念に思います.
しかし,‘社会’に役だつかどうかで人間が序列化されている状況のなかで,それに抗して,‘権利としての社会保障,そのなかでの医療’に努めておられる読者に,問題提起の役割の一端として,以下述べてみることにいたします.
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